リンパ浮腫に対する培養リンパ管移植の効果と瘢痕組織のリンパ管再生阻害の基礎研究

2019 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 18H03072
• 研究機関: 金沢大学
• 研究代表者: 中谷 壽男 金沢大学, 保健学系, 教授 (60198124)
• 研究分担者: 山本 靖彦 金沢大学, 医学系, 教授 (20313637) ; 向井 加奈恵 金沢大学, 保健学系, 准教授 (30755335) ; 臺 美佐子 金沢大学, 保健学系, 助教 (50614864)
• 研究期間 (年度): 2018-04-01 – 2021-03-31
• キーワード: 培養リンパ管 / 脂肪組織由来間葉系幹細胞 / マウス / 集合リンパ管 / 集合リンパ管結紮 / 交通リンパ管 / リンパ管迂回路

研究実績の概要

１．培養リンパ管をマウスに移植する実験：マウス精巣上体白色脂肪から単離した脂肪組織由来間葉系幹細胞（ADSCs）を細胞積層法を用いて培養し，多層構造をとるリンパ管の作製に成功したが，移植できるリンパ管の作製までには達しなかった．
２．瘢痕組織はリンパ管再生を阻害しているかの実験：皮膚の皮下脂肪を含む全層欠損創で形成される瘢痕組織には，毛細リンパ管がまばらに形成されるが，平滑筋を伴う交通リンパ管や集合リンパ管は形成されないことが判明した．さらに，リンパ管を増殖させるために血管内皮細胞増殖因子のAとCを皮膚全層欠損創の周囲に投与したが，結果は先の実験とほとんど変わらなかった．しかしながら，創傷部位を迂回するリンパ管迂回路が出現し，リンパが流れることが判明した．
３．集合リンパ管を頭尾の２カ所で手術糸で結紮した後に，集合リンパ管がどうなるかの実験：結紮の間の集合リンパ管の再開通は起きなかった．しかしながら，結紮部位より頭側と尾側を結ぶリンパ管の迂回路が出現した．この迂回路は，新生したリンパ管では無く，交通リンパ管の拡張であることが判明した．この研究はPLOS ONEに掲載された．
４．乳がん術後にリンパ浮腫を発生した方と発生しなかった方で，腋窩の瘢痕組織が異なるエコー像として見られるかの調査：この実験を主に担当する研究分担者が，異動になり，異動先での研究継続を模索したがかなわず，研究は中止となった．
５．その他の研究:海外の研究者との共同研究で，常温プラズマの効果を検証して，２篇の論文として発表した．筋肉内注射の大腿での適切な部位を，生体とご遺体を用いて研究し，適切な部位を決定し論文として発表した．皮静脈への静脈内注射で注射しやすい皮静脈の条件を明らかにし，論文として発表した．エストロゲンの皮膚創傷治癒効果を調べる実験を行いエストロゲンの効果を示した論文を発表した．

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

１．培養リンパ管をマウスに移植する実験：移植できるほどの培養リンパ管の作製にはまだ至っていない．リンパ管の多層構造化には成功したので，つぎの段階に進める状況であったが，移植できるようなリンパ管がまだできていないため．．
２．瘢痕組織はリンパ管再生を阻害しているかの実験：瘢痕部では，多数のリンパ管や平滑筋を持ったリンパ管の再生は困難であることが分かったことと迂回路が形成されることが判明したので，そのメカニズムを明らかにして，人への応用を進めるために，瘢痕部に平滑筋を持ったリンパ管を形成させる良い方法を，まだ模索中であるため．
３．乳がん術後にリンパ浮腫を発生した方と発生しなかった方で，腋窩の瘢痕組織が異なるエコー像として見られるかの調査：この実験は，主に担当していた研究者が，異動となったので，続けることができなくなり，断念せざる得ない状況となった．その代わりに，上記の研究を進めることに力を注ぐようにした．

今後の研究の推進方策

１．培養リンパ管をマウスに移植する実験：細胞積層法を採用した培養方法で，多層性のリンパ管の形成に成功したので，さらに，平滑筋との共培養を行い，平滑筋を伴ったリンパ管の培養を進めていく事とリンパ管が形成に関わる因子を同定して，効率的にリンパ管を培養する条件を見出す．
２．瘢痕組織はリンパ管再生を阻害しているかの実験：上記の培養で同定された因子を瘢痕部に投与してリンパ管が多数再生するか，平滑筋を伴うリンパ管が形成されるかを検証する．
３．リンパ管迂回路の形成機序の解明：マウスやラットの実験では瘢痕があるとそれを迂回するようなリンパ管迂回路が形成されるので浮腫が形成されないことを我々は解明した．その迂回路形成のメカニズムを解明して，上記のリンパ管培養の効率化や瘢痕部でのリンパ管形成に応用する実験を行う．
４．乳がん術後にリンパ浮腫を発生した方と発生しなかった方で，腋窩の瘢痕組織が異なるエコー像として見られるかの調査：この研究は中止になったが，上記の２，３の実験を進めて人のリンパ管の再生と浮腫の軽減に繋げられる研究を行う．

研究成果

• [国際共同研究] Universitas Muhammadiyah Semarang(インドネシア)
  • 国名: インドネシア
  • 外国機関名: Universitas Muhammadiyah Semarang
• [雑誌論文] Exploring the Risk Factors for the Development of Recurrent Pressure Ulcer in Elderly Patients: A Prospective Observational Study (2020)
  • 著者名/発表者名: Defa Arisandi, Kazuhiro Ogai, Tamae Urai, Miku Aoki, Takeo Minematsu, Shigefumi Okamoto, Hiromi Sanada, Toshio Nakatani, Junko Sugama
  • 雑誌名: Journal of Wound Care 巻: 29 ページ: 14-24
  • DOI: https://doi.org/10.12968/jowc.2020.29.Sup4.S14
  • 査読あり
• [雑誌論文] Pre-collecting lymphatic vessels form detours following obstruction of lymphatic flow and function as collecting lymphatic vessel (2020)
  • 著者名/発表者名: Kimi Asano*, Yukari Nakajima*, Kanae Mukai, Tamae Urai, Mayumi Okuwa, Junko Sugama, Chizuko Konya, Toshio Nakatani
  • 雑誌名: PLOS ONE 巻: 15 ページ: 1-13
  • DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0227814
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Factors affecting superficial vein visibility at the upper limb in healthy young adults: A cross-sectional observational study (2020)
  • 著者名/発表者名: Kanae Mukai*, Taiga Fujii*, Yukari Nakajima, Asami Ishida, Moeka Kato, Mao Takahashi, Mihiro Tsuda, Nanami Hashiba, Namiko Mori, Ayaka Yamanaka, Toshio Nakatani
  • 雑誌名: The Journal of Vascular Access 巻: 19 ページ: 1-8
  • DOI: https://doi.org/10.1177/1129729820909187
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Ethanolic extract of the natural product of Daun sirih (Piper betle) leaves mayimpede the effectiveness of the plasma jet contact style for acute wounds (2019)
  • 著者名/発表者名: Heni Setyowati Esti Rahayu,Nasruddin Nasruddin, Laela Hayu Nurani, Sri Darmawati, Afiana Rohmani, Heni Lutfiyati, Eka Sakti Wahyuningtyas, Isabella Meliawati Sikumbang, Zaenul Muhlisin, Andri Sukeksi, Fitri Nuroini, Tatsuo Ishijima, Junko Sugama,Toshio Nakatani
  • 雑誌名: Clinical Plasma Medicine 巻: 15 ページ: 1-8
  • DOI: 10.1016/j.cpme.2019.100090
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Anatomically safe sites for intramuscular injections: a cross-sectional study on young adults and cadavers with a focus on the thigh (2019)
  • 著者名/発表者名: Yukari Nakajima*, Taiga Fujii*, Kanae Mukai, Asami Ishida, Moeka Kato, Mao Takahashi, Mihiro Tsuda, Nanami Hashiba, Namiko Mori, Ayaka Yamanaka, Noriyuki Ozaki, Toshio Nakatani
  • 雑誌名: Human Vaccines & Immunotherapeutics 巻: 16 ページ: 189-196
  • DOI: https://doi.org/10.1080/21645515.2019.1646576
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Evaluation of Indonesian and two types of Japanese honey on the acceleration of cutaneous wound healing: an experimental study in mice (2019)
  • 著者名/発表者名: Haryanto, Kanae Mukai, Yukari Nakajima, Mayumi Okuwa, Cau Kim Jiu, Junko Sugama, Toshio Nakatani
  • 雑誌名: Journal of Health Technology Assessment in Midwifery 巻: 2 ページ: 80-88
  • DOI: http://dx.doi.org/10.31101/jhtam.912
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Longitudinal investigation of Propionibacterium acnes burden and skin physiological function during menstruation in healthy wome (2019)
  • 著者名/発表者名: Kanae Mukai, Kazuhiro Ogai, Masato Kobayashi, Terumi Ueda, Yukari Nakajima, Toshio Nakatani
  • 雑誌名: Structure and Functiion (形態・機能) 巻: 18 ページ: 20-30
  • DOI: https://doi.org/10.11172/keitaikinou.18.20
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] When plasma jet is effective for chronic wound bacteriai nactivation, is it also effective forwound healing? (2019)
  • 著者名/発表者名: Sri Darmawati, Afiana Rohmani, Laela Hayu Nurani, Muhammad Evy Prastiyanto, Sri Sinto Dewi, Nia Salsabila, Eka Sakti Wahyuningtyas, Fri Murdiya, Isabella Meliawati Sikumbang, Ratnasari Nur Rohmah, Yun Arifatul Fatimah, Andi Widiyanto, Tatsuo Ishijima, Junko Sugama, Toshio Nakatani, N Nasruddin
  • 雑誌名: Clinical Plasma Medicine 巻: 14 ページ: 1-9
  • DOI: https://doi.org/10.1016/j.cpme.2019.100085
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Topical estrogen application to wounds promotes delayed cutaneous wound healing in 80-week-old female mice (2019)
  • 著者名/発表者名: Kanae Mukai, Yukari Nakajima, Kimi Asano, Toshio Nakatani
  • 雑誌名: PLoS ONE 巻: 14 ページ: 1-14
  • DOI: https://doi.org/10.1371/journal. pone.0225880
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] 上肢の皮静脈が目視困難な条件の探索 (2019)
  • 著者名/発表者名: 藤井太河，向井加奈恵，中島由加里，石田朝実，加藤萌香，高橋茉央，津田美宙，羽柴菜々美，森奈美子，山中郁佳，中谷壽男
  • 学会等名: コ・メディカル形態機能学会 第１８回学術集会・総会
• [学会発表] 頭頚部がんの放射線治療中患者の照射野の皮膚水分量の変化 (2019)
  • 著者名/発表者名: 定塚佳子，大桑麻由美，中谷壽男，須釜淳子，高松繁行
  • 学会等名: コ・メディカル形態機能学会 第１８回学術集会・総会
• [学会発表] 皮膚創傷治癒におけるリンパ管の関与 (2019)
  • 著者名/発表者名: 浅野きみ，中島由加里，向井加奈恵，中谷壽男
  • 学会等名: 第49回日本創傷治癒学会
• [備考] 金沢大学医薬保健研究域保健学系 看護科学領域 臨床実践看護学講座 創傷看護技術学分野
  • URL: https://wmn.w3.kanazawa-u.ac.jp/study.html