研究課題/領域番号 |
18H03127
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉浦 英志 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (50303615)
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研究分担者 |
亀高 諭 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (10303950)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん / サルコペニア / 重症化予防 / 薬剤シーズ / 運動療法 |
研究実績の概要 |
1)LM8 細胞培養上清によるがん悪液質性C2C12 筋管萎縮モデルに対し、LM8 培養上清を添加することで筋萎縮効果を検討したところ、Control 群では細胞質が太い筋管細胞が観察されたのに対し、LM8 上清添加群では核周囲の細胞質が細い筋管細胞が観察された。また、筋萎縮マーカー遺伝子であるAtrogin-1 とMuRF1のmRNA発現量が増加傾向にあった。次にColon-26 細胞を用いてがん悪液質モデルマウスを作製し、骨格筋量を調査したところ、がんによる筋重量の減少が見られた。またtotal RNA を抽出しReal-timePCR 法によって筋萎縮マーカー遺伝子のmRNA の発現量を検出し比較した結果、両遺伝子とも、C26 群で高い発現量が見られた。 2)split-luciferaseシステムを応用した筋芽細胞の融合過程を簡便に検出できるHiMy法 (HiBiT-based myoblast fusion assay)を開発した。筋管誘導の過程を解析し、これまでに検出不可能であったごく初期の細胞融合現象を見出し、その過程を定量的に測定することが可能となった。本系が新たな細胞融合関連遺伝子や化合物の探索、機能評価に利用できることが示された。 3)消化器がん手術を施行し,術前・退院時ともにADLが自立であった周術期患者63例をエントリーした。術後合併症の有無の2群間で各因子を比較し、術後合併症の有無を従属変数、p<0.10の変数を独立変数としたロジスティック回帰分析を行ったところ、術後合併症は24例(38%)に見られ、回帰分析にて、活動量が独立変数として抽出された。術前に活動量を増やすことで合併症発症リスクを軽減できる可能性があると考えられた。今後がん患者の手術治療における有益な情報を提供するものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化合物ライブラリーからの抽出はまだ出来ていないが、筋芽細胞の融合過程を簡便に検出できるHiMy法 (HiBiT-based myoblast fusion assay)を開発したことで、これまでに検出不可能であったごく初期の細胞融合現象を見出し、その過程を定量的に測定することが可能となった。今後、筋芽細胞融合に対し促進あるいは阻害効果が見られるものを選択し、スクリーニングで筋形成の促進効果が強く毒性の低い薬剤を抽出していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に得られた結果を基にして以下の研究を行う。 1)がん悪液質筋萎縮に対する薬剤シーズの抽出と探索された薬剤効果機序の解析を行う。培養筋芽細胞C2C12を使用し、化合物ライブラリーから1次スクリーニングで筋芽細胞融合に対し促進あるいは阻害効果が見られるものを選択し、2次スクリーニングで筋形成の促進効果が強く毒性の低い薬剤を抽出する。探索された薬剤を投与した担癌マウスに対して、筋組成や構造、筋の蛋白分解や合成経路の確認し、薬剤による筋萎縮抑制の分子機序をシグナル伝達系の観点から作用機序を解析する。なお、検体資料を薬用冷凍冷蔵庫(マイオバイオVT-208HC)にて保存する。 2)がん悪液質筋萎縮に対する運動療法介入効果の検討を行う。坦癌マウスに対して、トレッドミルによる他動運動効果とランニングホイールによる自動運動効果を検討する。トレッドミル装置は傾斜0度、長さ50㎝、幅7.7㎝のものを使用し、速度(低速度群5m/min、高速度群15m/min)、時間(1日30分、60分、90分)について変化させ、筋萎縮を最も効果的に抑制できる運動強度を検証する。ランニングホイールによる運動では1日の回転数の計測により運動量を算出し、運動量と筋萎縮抑制効果を解析する。 3)周術期および終末期がん患者を対象とした運動療法介入効果の臨床試験を行う。基礎研究で得られた結果に基づいて運動療法プログラムを作成する。運動療法の有効性を確認するために筋酸素飽和度計、筋量計、生体情報計測器、活動量計を用い、運動療法群とコントロール群との間での比較試験を行う。コホート研究より同定したリスク因子をアウトカムの代替指標として改善効果を検討する。
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