研究課題
1) 【がん悪液質筋萎縮に対する薬剤シーズの抽出】C2C12 マウス筋芽細胞の筋分化を促進する可能性のある処方として薬剤Aが見出され、マウス培養細胞系においては筋分化における中心的な転写因子であるマイオジェニンの発現が促進される傾向が観察された。さらに、がん悪液質モデルマウスを用いた薬剤Aの効果を体重、腫瘍重量、下肢骨格筋重量、握力等のパラメータ、炎症性サイトカインおよびマイオカイン、アディポカインの発現変化等について検討した結果、がん悪液質病態発症に伴い筋組織に発現誘導される炎症性サイトカインIL-6の発現が薬剤Aにより減少する傾向が見出された。2) 【抽出された薬剤のがん悪液質筋萎縮に対する効果の検討】抽出された薬剤A投与群においてアディポカインの一種であるアディポネクチンの発現の上昇傾向が見られた。アディポネクチンの発現の上昇から、新規タンパク質合成のシグナルに関わるキナーゼmTOR の活性化を抗リン酸化 mTOR (Ser2448)抗体を用いてイムノブロッティングにより解析を行ったところ、薬剤A投与群でコントロール群に対し有意なシグナル分子のリン酸化がみられた。これらの結果より骨格筋における新規タンパク質合成経路が活性化されていることが示唆された。3) 【周術期がん患者を対象とした臨床試験】消化器がん患者において術前身体活動量と術前後の運動耐容能の変化との関連性につき調査を行った。対象は消化器がん患者68例とし、運動耐容能として6分間歩行を測定した。術後運動耐容能の回復良好群と不良群において要因を群間比較し、回復良好群と不良群を従属変数としたロジスティック回帰分析を実施したところ、低身体活動量は術後運動耐容能の回復不良群の独立した予測因子であった。身体活動量が低いほど術後の運動耐用能の回復が不良となる可能性が示唆された。
3: やや遅れている
HiMy法 (HiBiT-based myoblast fusion assay)による手法が安定したことにより、化合物ライブラリーからの抽出が可能となった。コントロール群に対して2倍以上の活性(促進効果)が見られたものが確認されたが、毒性の有無や濃度依存性による効果についての検討がまだ十分ではない。また、探索された薬剤による筋萎縮抑制の分子機序をシグナル伝達系の観点から薬剤の作用機序を解析していく必要がある。In vivoの実験においては、がん悪液質モデルマウスの作成が成功し、がん悪液質による筋委縮作用や運動介入による筋委縮抑制効果が確認されたが、コロナ過により実験日が限定されたため、骨格筋萎縮に関するマーカー遺伝子の解析がまだ不十分である。臨床研究においても、周術期がん患者におけるサルコペニアの評価や悪液質の進行した終末期がん患者を対象とした評価を行っているが、コロナ過における症例数の集積が当初予定よりも少ない傾向である。
コロナ過により、症例の集積が少ない傾向にはあるものの参加施設を増やすなど目標症例数を達するよう努力していきたい。今年度の計画としては以下の研究を行っていく。1)運動療法によるin vivoでの筋萎縮保護効果を検討する。マウスを使用したin vivoでの実験において、動物用トレッドミルを用いた運動療法を施行した担癌マウスに対して、がん細胞接種4週間後、体重、腫瘍重量、下肢骨格筋の重量を測定するとともに、前脛骨筋のtotal RNAを抽出し、cDNA合成の後、定量PCR(qPCR)を行い、mRNA発現量を解析する。また、がん悪液質性筋萎縮抑制効果について骨格筋萎縮に関するマーカー遺伝子を解析する。2)ヒット化合物と運動療法の併用によるin vivoでの筋萎縮保護効果を検討する。探索により見出された薬剤を投与された担癌マウスにおける筋組成や構造、筋の蛋白分解や合成経路の確認、炎症性サイトカインの計測を行う。薬剤非投与群との比較を行い、 薬剤の筋萎縮への保護効果に対する有効性を確認するとともに、薬剤投与群、非投与群に対して運動療法併用による相乗効果について検討を行う 。3)周術期がん患者を対象とした運動療法介入効果を検討する。消化器がん手術患者に対して術後リハビリテーションを手術翌日より開始、離床、歩行、有酸素運動を中心とした運動療法を実施し、運動療法の介入による術後合併症予防や身体機能回復に対する効果について検討を行う。4)終末期がん患者を対象とした運動療法介入効果を検討する。在宅緩和ケアにおける終末期がん患者に対して訪問リハビリテーションを行い、リハビリテーション前後の身体機能及びQOL、ADLを調査する。訪問リハビリテーションは立位・歩行などの有酸素運動を中心とした運動療法を実施し、運動療法の介入による効果について検討を行う。
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