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2018 年度 実績報告書

自閉スペクトラム症者の感覚処理障害の認知神経基盤に基づく客観的分類

研究課題

研究課題/領域番号 18H03140
研究機関国立障害者リハビリテーションセンター(研究所)

研究代表者

井手 正和  国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究員 (00747991)

研究分担者 岩永 竜一郎  長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 教授 (40305389)
大嶋 玲未  目白大学, 人間学部, 専任講師 (50755684)
松島 佳苗  京都大学, 医学研究科, 客員研究員 (60711538)
渥美 剛史  国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 特別研究員(PD) (90781005)
研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワード感覚処理障害 / 感覚過敏 / 自閉スペクトラム症 / 時間分解能 / 脳画像解析 / fMRI / MRS / 発達障害
研究実績の概要

自閉症者の中でも個人個人で多様な感覚処理障害を有していることについて、その病態に基づくタイプ分類を行い、それぞれが刺激に対してどのような反応特性を示すのかを心理実験と脳画像解析を始めとする生理指標で明らかにする。平成30年度は、長崎大学を中心に短縮版感覚プロファイルと対人応答性尺度(SRS-2)を自閉症者対象に配布し、70名ほどから回答を得ることができた。このデータを非階層クラスター分析を用い、目白大学と国リハ研究所との共同で解析を行った。その結果、感覚処理特性に基づいて、自閉症者が4つのグループに分類されることが分かった。グループごとの刺激への反応特性を調べるための心理実験と脳画像解析を進めた。実験から、自閉症者では、触覚の時間分解能が高いほど、感覚過敏の程度が強いことを明らかにし、その成果がJournal of Autism and Developmental Disorder誌に掲載された。更に、わずか6ミリ秒の時間差でも正確に触覚刺激の提示順序を解答できる症例に着目し、その脳活動を計測した。その結果、前頭葉と側頭葉のいくつかの領域で、極めて強い神経活動が生じていることが分かり、左腹側運動前野(vPMC)の神経活動の強さが、感覚過敏の程度と関連することも見出した。この脳部位の神経活動の抑制低下が感覚過敏と関連すると考え、脳内に含まれるGABA濃度の計測が可能なMRSの手法を導入した。その結果、左vPMCのGABA濃度が低下するほど、感覚過敏が強いことも示唆された。fMRIの研究成果については論文投稿を済ませ、MRSの研究については国際学会において発表を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

短縮版感覚プロファイルとSRS-2を配布し、自閉症者70名以上のデータを収集した。これを非階層クラスター分析のk-meansで解析した結果、当事者を感覚処理特性に基づいて4つのグループに分類できた。この結果は、オーストラリアで200名以上を対象に行った調査(Lane et al., 2014)との整合性が高い結果であり、異文化間で自閉症者の感覚の特性が共有される可能性を示唆する。また、同時に取得した自閉症の程度を評価するSRS-2の得点との関係から、感覚処理特性に基づいて分類されたグループごとに、SRS-2でも自閉症の特徴に基づく分類ができることが見出されている。このことから、感覚処理障害と自閉症の中核症状との間には、共通した神経基盤が想定できる。また、触覚刺激の時間順序判断中の脳活動を計測したfMRIの実験では、極めて高い時間分解能をもつ自閉症の症例では、22名の定型発達者と比べて、前頭葉と側頭葉のいくつかの領域で高い神経活動が見られ、そのうち左上前頭回、右下前頭回の活動の強さが、それぞれ時間分解能の精度と正の相関・負の相関を示した。更に、左腹側運動前野(vPMC)の活動の強さが、感覚過敏の症状の強さとも関連する可能性が示唆された。この結果に基づき、左vPMCの神経活動の抑制の低下が感覚過敏と結びつくとの仮説に基づき、当該部位を関心領域(ROI)とし、ASD者13名、定型発達者20名を対象に、MRSでGABA濃度を計測した。仮説と一致し、左vPMCのGABA濃度が低下しているほど、感覚過敏が強いことが示唆された。平成30年度に予定していた質問紙データの取得と解析だけでなく、感覚処理障害の個人特性を明らかにする心理実験と生理計測の手法の確立を大幅に進めることができた点で、当初の計画以上の進展があったと考える。

今後の研究の推進方策

質問紙のデータの解析によって示唆された自閉症者の感覚処理障害に関するタイプ分類について、結果の統計的信頼性を高めるために、データの追加を行う。また、年齢層や知能などの要因が感覚特性に与える影響を検討するため、更に詳細な解析を行う。感覚処理障害の特徴を精度高く抽出できる心理実験課題とその生理基盤についての検討を進める。特に、これまで刺激の時間情報処理といった低次の感覚処理に焦点を当ててきたことから、情動状態や覚醒度などが感覚過敏に与える影響を検討する。定型発達者を対象にした先行研究では、不安を喚起する刺激の提示によって、知覚処理精度が上昇し、交感神経と副交感神経のバランスに影響することが示唆されている(Allen et al., 2016)。また、心拍の高周波数成分のばらつきが感覚過敏の程度と関連するということを分担研究者(松島)が報告している(Matsuhisma et al., 2016)ことから、心拍の計測を実験に導入する。具体的には、これまで感覚過敏の程度との関連を検証してきた時間順序判断課題が、情動的な刺激の提示によってどのように変化するかを検討し、それが自律神経系に与える影響について自閉症者の特徴を調べる。これにより、これまで実施してきた中枢神経における低次の感覚処理を反映する課題に加え、自律神経による刺激への身体的反応の調節と関連する情動系の神経生理基盤など、感覚処理障害に関連する多段階の過程について、自閉症者の特徴を検討することができる。

備考

上記2件の一般公開イベントを自閉症啓発を目的としたライト・イット・アップ・ブルー所沢実行委員会との共催で開催し、研究成果のアウトリーチを行った。

  • 研究成果

    (16件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 3件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] 過剰な感覚情報処理に基づく自閉スペクトラム症者の感覚過敏の検討2019

    • 著者名/発表者名
      井手正和, 渥美剛史,ムリンモイ・チャクラバティ,矢口彩子,佐野美佐子,深津玲子,和田真
    • 雑誌名

      臨床神経心理

      巻: 29 ページ: 不明

  • [雑誌論文] Higher tactile temporal resolution as a basis of hypersensitivity in individuals with autism spectrum disorder2018

    • 著者名/発表者名
      Ide, M*, Yaguchi, A, Sano, M, Fukatsu, R, & Wada, M
    • 雑誌名

      Journal of Autism and Delopmental Disorders

      巻: 49 ページ: 44-53

    • DOI

      10.1007/s10803-018-3677-8

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Spontaneous discriminative response to the biological motion displays involving a walking conspecific in mice2018

    • 著者名/発表者名
      Atsumi, T*, Ide, M, & Wada, M*
    • 雑誌名

      Frontiers in Behavioral Neuroscience

      巻: 12 ページ: 263

    • DOI

      10.3389/fnbeh.2018.00263

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 感覚過敏の神経生理過程が明かす自閉スペクトラム症者の感覚経験2018

    • 著者名/発表者名
      井手正和
    • 雑誌名

      日本認知科学大会第35回大会発表論文集

      巻: 1 ページ: 161-165

  • [学会発表] 発達にともなう感覚・運動の障害の神経生理機序2018

    • 著者名/発表者名
      井手正和
    • 学会等名
      感覚統合FD研修会
    • 招待講演
  • [学会発表] 感覚過敏の神経生理過程が明かす自閉スペクトラム症者の内的世界2018

    • 著者名/発表者名
      井手正和
    • 学会等名
      認知科学大会第35回大会
    • 招待講演
  • [学会発表] Neural circuit of hypersensitivity derived from high temporal resolution of sensory stimuli: evidence from autism-spectrum disorders.2018

    • 著者名/発表者名
      Atsumi T, Ide M, Umesawa Y, Chakrabarty M, Yasu K, Yaguchi A, Sano M, Fukatsu R, Wada M
    • 学会等名
      第41回日本神経科学大会
  • [学会発表] 一次運動野のGABA増加と自閉スペクトラム症者の粗大運動障害との関連2018

    • 著者名/発表者名
      梅沢侑実,松島佳苗,渥美剛史,加藤寿宏,深津玲子,和田真,井手正和
    • 学会等名
      第12回Motor Control研究会
  • [学会発表] 触覚刺激の時間処理精度に関連する左腹側運動前野のGABA濃度と感覚過敏との関連2018

    • 著者名/発表者名
      渥美剛史,梅沢侑実,ムリンモイ・チャクラバティ,矢口彩子,深津玲子,井手正和
    • 学会等名
      第21回ヒト脳機能マッピング学会
  • [学会発表] 臨床現場での応用を目指した感覚過敏の神経生理に関する研究紹介2018

    • 著者名/発表者名
      井手正和
    • 学会等名
      発達障害の感覚・運動で見られる問題の実像とその神経基盤
  • [学会発表] 個性的な感覚世界の謎2018

    • 著者名/発表者名
      井手正和
    • 学会等名
      敏感さ、鈍感さってなあに? 個性的な感覚と共に生きる社会
  • [学会発表] 脳の興奮の調整と自閉スペクトラム症の感覚過敏2018

    • 著者名/発表者名
      井手正和
    • 学会等名
      ”ここちよい” ”つらい” 感覚の科学 ~多様な感覚をもつ人同士の共生社会に向けて~
  • [学会発表] 自閉症の人がはたらきやすい職場環境2018

    • 著者名/発表者名
      大嶋玲未
    • 学会等名
      敏感さ、鈍感さってなあに? 個性的な感覚と共に生きる社会
    • 招待講演
  • [学会発表] 高機能自閉スペクトラム症者の職場定着を支える企業の組織風土および取り組み2018

    • 著者名/発表者名
      大嶋玲未・浦野由佳
    • 学会等名
      日本発達障害支援システム学会 第17回研究セミナー/研究大会
  • [備考] ”ここちよい” ”つらい” 感覚の科学 ~多様な感覚をもつ人同士の共生社会に向けて~

    • URL

      https://sites.google.com/view/sendo2018

  • [備考] 敏感さ、鈍感さってなあに? 個性的な感覚と共に生きる社会

    • URL

      https://sites.google.com/view/sympo2018

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公開日: 2019-12-27  

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