研究実績の概要 |
ボールの直径に細いパイプを取り付け、ボールに埋め込んだ力覚センサーで、ボールに加わる力を計測することで、摩擦力を推定するとともに、ボールの回転からボールへの接線力を推定する方法を開発した。これにより、ボールの回転数を計測することでボールへの接線力を推定することを可能とした。 成人野球投手19名を対象に、16台のカメラのモーションキャプチャーシステム(Vicon VX, VICON)を用い、サンプリング周波数500Hzまたは1,000Hzで、投球動作の動作分析を行った。分析は以下の3つのモデルを用いて、肘や肩の障害リスクと考えられているキネティクス変数(肘内反トルク、肩前方剪断力、肩上方剪断力、肩近位牽引力)の比較を行った:①指の3セグメント(基節骨、中節骨、末節骨)をモデル化するとともに、リリース直前にボールが手の中を転がるモデル(改良型モデル)、②指のモデル化とボールは転がらずに指の先端にくっついたモデル(指付加モデル)、③ボールの代替として質点が手掌遠位部にくっついた手セグメントまでのモデル(従来型モデル)。 改良型モデルは、どの変数においても指付加モデルと有意な差は見られなかったが、従来型モデルに比べて最大肘内反トルク、肩前方剪断力において有意に大きな値となった。しかし、球種によるその増加量の違いには有意差は認められなかった。その主な理由として挙げられるのは、変化球の投げ方の個人差である。前腕や手首の角度、あるいは指の使い方やボールへ加える力の方向が異なるために、同じ変数で直球と比べて大きな値を出す投手もいれば、逆に小さな値を示す投手もいることから全体的に統計的な有意差を検出することはできなかった。したがって、個別にはリスクを抱えているといえるものの、全体としてみると、変化球が投球障害のリスクファクターであるという積極的な結果にはならなかった。
|