研究実績の概要 |
スポーツ傷害は、過度なトレーニングや低栄養などの環境要因に加えて、両親から受け継いだ体質すなわち遺伝要因の影響も受ける。そこで本研究課題では、全ゲノムを対象とした網羅的遺伝子多型解析(ゲノムワイド関連解析)により、スポーツ傷害の代表例である疲労骨折・筋損傷・靱帯損傷に関連する遺伝要因の同定を試みている。 2020年度は、2019年度唾液から抽出した総DNAを用いて疲労骨折・筋損傷・靱帯損傷に関するゲノムワイド関連解析を実施した。昨年度、スポーツ傷害に関する調査で得られた3,189名のなかから疲労骨折経験者、筋損傷経験者、靱帯損傷経験者、スポーツ傷害未経験者の計1,230名を用いて、東芝社製の全ゲノムを対象とした網羅的遺伝子多型解析システム・ジャポニカアレイを用いて659,253多型を解析した。その後、これまでヒト全ゲノム約30億塩基対の解析を終えている日本人約3,500名をリファレンスパネルとし、インピュテーションすることにより55,292,870多型を抽出した。その後クオリティー・コントロールを実施し、5,388,556多型を本研究の関連解析に用いた。本研究で用いたサンプルサイズは、疾患研究で用いられている数万人から数十万には及ばないためゲノムワイド関連解析でスポーツ傷害に関連する遺伝子多型を抽出するための検出力が低いと考えられる。そこで本来用いられているゲノムワイド関連解析時に用いられる有意水準であるP<5×10-8ではなく、P値が5×10-5より低い多型をスポーツ傷害に関連する候補遺伝子として定義し抽出した。その結果、疲労骨折では273多型、筋損傷では122多型、および靱帯損傷では143多型が候補遺伝子として抽出された。これらの候補遺伝子について、今後、再現性試験や機能解析を実施してスポーツ傷害に関連しうる多型か否かを検証していく必要がある。
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