研究実績の概要 |
全ゲノムを対象とした網羅的遺伝子多型解析(ゲノムワイド関連解析)により、スポーツ傷害の代表例である疲労骨折・筋損傷・靱帯損傷に関連する遺伝要因の同定を試みている。 本年度は、これまでに抽出した総DNAを用いて疲労骨折・筋損傷・靱帯損傷に関するゲノムワイド関連解析を実施した。3,536名のなかから疲労骨折経験者、筋損傷経験者、靱帯損傷経験者、スポーツ傷害未経験者の計1,230名を用いて、東芝社製の全ゲノムを対象とした網羅的遺伝子多型解析システム・ジャポニカアレイを用いて659,253多型を解析した。 その後、これまでヒト全ゲノム約30億塩基対の解析を終えている日本人3,552名をリファレンスパネルとし、インピュテーションすることにより55,292,870多型を抽出した。その後クオリティー・コントロールを実施し、5,388,556多型を本研究の関連解析に用いた。本研究で用いたサンプルサイズは、疾患研究で用いられている数万人から数十万には及ばないためゲノムワイド関連解析でスポーツ傷害に関連する遺伝子多型を抽出するための検出力が低いと考えられる。そこで本来用いられているゲノムワイド関連解析時に用いられる有意水準であるP<5×10-8ではなく、P値が5×10-5より低い多型をスポーツ傷害に関連する候補遺伝子として定義し抽出した。 本年度は特に、疲労骨折に焦点を当て、関連解析を実施した。疲労骨折の発症率に男女差はみられなかった。P<5×10-5のGWAS suggestive levelの遺伝子多型は、34遺伝子座から292多型見つかった。そのうち、最も強く関連性がみられた遺伝子多型(P<5.3×10-8)は、13番染色体上のnon-coding領域であった。また、遺伝子多型の影響度から推定される疲労骨折の遺伝率は、24.8%であることが示された。今後、これらの多型の再現性試験や機能解析を実施して疲労骨折に関連するか否かを検証する必要がある。
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