「文化資源としての民族スポーツ研究」と題した本研究は、民族スポーツに文化資源としての有用性を認め、とりわけて観光資源としての活用可能性について論じることを目的としている。これまで民族スポーツ研究は、起源や伝播や変容といった時間軸に即した通時的関心や民族アイデンティティー(エスニシティー)といった共時的関心から接近され、文化資源としての着目、またその活用といったプラクティカルな視点からのアプローチは未着手の状態にあった。日本、韓国、中国に居住する8人の研究協力者との共同で進められた本研究は、対象地域をアジア(わけても東アジア、東南アジア、南アジア)に限り、現地フィールドワークによって、分担地域における民族スポーツの観光利用の実態調査をおこなってきた。本年度は、①これまでデータが不十分であった地域について補充調査をおこない、また②現地のイーミック情報(現地の人たちに共有されている当該民族スポーツについての由来・意味・価値などをめぐる言説)が収集、整理、分析され、③本研究の最終目標である研究者が提案するエティック情報(研究代表者と研究協力者が現地のイーミック情報に基づきつつ、あらたに独自のアカデミック分析から導かれる解釈によって、当該民族スポーツに観光資源として有用と考えられる新しい文化性を付与しえる情報)についての検討がおこなわれた。こうした取り組みは研究の現地還元という意味を持つ。各地の事例は互いに比較が可能なように記述内容の書式が統一され、当該民族スポーツの種目カテゴリー、実施時期、実施の具体的方法、イーミック情報、エティック情報、これら情報の典拠といった内容を満たすようになっている。
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