研究実績の概要 |
昨年度までに、筋の収縮特性を利用した「筋肉の質的評価」方法の確立(Tomita, Watanabe et al. Physiol Rep 2020)、高齢者における筋力トレーニング効果の「中枢神経」と「筋肉」の要因への分離評価(Watanabe et al. J Gerontl 2020)といった成果を挙げた。 本年度は、若齢者において、筋力トレーニングの効果を「中枢神経」と「筋肉」に分離して評価する試みを実施し、高齢者と同様のトレーニングを付加したにもかかわらず、「中枢神経」と「筋肉」の適応機序が高齢者とは異なるという結果が得られた(Watanabe et al. Front Nutr 2021)。具体的には、高齢者では筋力トレーニングによって「中枢神経」の適応が顕著に観察されたものの、若齢者ではそのような応答は見られなかった。この結果は、高齢者では筋力トレーニングにともなう筋力増加に対する「中枢神経」の貢献度が、若齢者のそれと比べて大きいという先行研究の結果(Moritani DeVries, J Gerontl 1980)を支持するものである。一方で、高齢者における筋力トレーニングで「筋肉」の適応(筋肥大など)を引き起こすためには工夫が必要である可能性が示された。 以上の結果から、トレーニング効果は「中枢神経」と「筋肉」の要因で独立した適用機序を示すこと、若齢者と高齢者では、これらの適応機序が同一ではないこと、が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
一昨年度より継続的に取得してきた様々な年齢層(20~90歳代、約150名分)での「最大筋力」、「中枢神経」、「筋肉量」、「筋肉の質的評価項目」に関するデータを分析し、年齢横断的な各種要因のデータベースを作成する。これらのデータは、単に「加齢」が筋力を規定する各要因に及ぼす影響を示す基盤データになるだけでなく、各種疾患患者との比較によって当該疾患患者における筋力低下の原因を明確にする際にも利用可能である。既に、我々が構築しつつあるデータベースを活用し、神経疾患患者における運動時の中枢神経系の活動特性を明らかにした研究も公表されている(Noto, Watanabe et al. Clin Neurophysiol 2021, Nishikawa, Watanabe et al. Eur J Neurosci 2021)。今後は、このようなデータ活用も含めて、より広く大きなデータベースの確立を目指す。
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