研究課題/領域番号 |
18H03168
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研究機関 | 山口県立大学 |
研究代表者 |
曽根 文夫 (山崎文夫) 山口県立大学, 看護栄養学部, 教授 (80269050)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 冷え症 / 自転車運動 / 皮膚温 / 温度感覚 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究において8週間の軽強度運動の実践により冷えの愁訴が減弱されることを示し、その生理学的要因として冷覚感受性の低下が関与することを示唆した。冷覚感受性が運動によって変化する原因として、運動時の体温上昇が体の冷えの減弱に関与している可能性がある。しかしながら、体温上昇を伴う運動が冷覚機能に及ぼす影響については明らかでない。 そこで本年度は、冷え症の自覚のある若年女性12名を対象として、冷覚機能に対する運動の急性効果を検討した。運動負荷を行う実験(運動実験)と、運動負荷を行わないで安静を維持する実験(対照実験)の2つを、異なる日の同一時間帯に行った。運動にはリカンベント自転車エルゴメーターを用い、5分ごとに運動負荷(最大心拍数の30~60%の範囲)を上昇させて合計15分間行った。手を15℃の冷水に1分間浸漬する冷却テストを運動前、運動直後、運動後30分目に実施し、皮膚温、手の温冷感と快適感の変化から冷覚機能の感受性を評価した。対照実験では冷却テストを運動実験と同じタイミングで実施した。また身体11箇所の温冷感のアンケート調査を運動前、運動直後、運動後30分目に行った。 手部冷却中の冷覚と温熱性不快感は運動後の深部体温の有意な上昇(+0.5±0.3℃)によって減少した。運動によって温冷感の感受性は変化しなかったが、温熱性快適感の感受性は低下した。これらの感受性は対照実験を通して変化しなかった。運動直後に温感は体幹部で増加したが、足の冷感は運動後30分目に減少した。 これらの結果から、運動後の深部体温と皮膚温の変化によって温冷感は部位特異的に影響されること、冷覚感受性を変化させることなく、冷却誘発性不快感の感受性は一過性に抑制されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究において軽強度運動の実践により冷えの愁訴が減弱されることを示し、その生理学的要因として冷覚感受性の低下が関与することを示唆した。冷覚感受性が慢性的な運動実践によって変化する原因として、運動時の体温上昇が体の冷えの減弱に関与している可能性が考えられたため、本年度は冷覚機能に対する運動の急性効果を検討した。研究実績の概要に示す内容の実験を行った結果、運動後の深部体温と皮膚温の変化によって温冷感は部位特異的に影響されること、冷覚感受性を変化させることなく冷却誘発性不快感の感受性は一過性に抑制されること等が示唆された。その成果を論文にまとめ、英文誌に投稿することができている。このように概ね当初の計画通りに研究が進んでいるため。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究において、軽度な運動の実践によって体の冷え症状が緩和されることを示唆し、その緩和機序の1要因として身体末梢部の皮膚血管運動機能の変化が関与する可能性が考えられた。そこで今年度は、4週間の有酸素運動介入により冷え症状の改善とともに末梢血管拡張機能が亢進されるか否かについて検討する。 被験者は運動習慣がなく、冷え症を自覚する成人女性20名を被験者として募集する。実験の実施に当たっては大学の倫理委員会の承認を得るものとし、被験者には研究の目的や内容について文書を用いて説明した上で承諾を得る。被験者を運動群と対照群の2グループに分ける。その際、体の冷えに関する質問紙より冷え症の程度を判別して両グループで同等になるように調整する。いずれのグループの被験者においても介入期間を通して活動量計を身につけてもらい、正確に運動量をモニターする。運動群の被験者には、1週間に4日以上、介入前の平均歩数よりも1日に5000歩以上多く歩き、その内15分間以上は速歩を行うよう依頼する。一方、対照群の被験者には介入期間前とほぼ同等の身体活動量を維持してもらう。 介入期間の前後で、同一の測定を同一環境条件(室温27℃、相対湿度45%)下で実施する。すなわち、体の冷えに関するアンケートを実施するとともに、安静時代謝量、舌下温、皮膚温(左手掌、左手指、左右足背、左右足指)を測定する。また、足指皮膚血流量を測定しながら足部を43℃の温水に浸漬させて加温し、皮膚血管拡張機能を評価する。これらの測定・評価項目を運動介入前後およびグループ間で比較することにより、有酸素運動が温度感覚と皮膚血管拡張機能に及ぼす影響を明らかにする。
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