研究課題
老化を遅らせることが健康寿命延伸の最も本質かつ有効な方法である。老化のスピードは環境因子に大きく影響される。肺は環境因子に対するファーストラインの防御を司る組織である。従って、肺のストレス消去能と老化のスピードには密接な関係があるものと思われる。Nrf2は酸化ストレスなどの環境因子で活性化され、抗酸化遺伝子や抗炎症遺伝子など生体防御に関わる遺伝子群を統一的に誘導することで、細胞レベルのストレス消去の基幹をなす転写因子である。Nrf2の発現低下や機能不全を有する個体では慢性的なストレスにさらされ、老化スピードが増加することを予想し、研究を開始した。初年度研究ではNrf2を欠損するマウスを用い、通常環境における老化スピードや臓器の老化の程度を評価した。清浄空気曝露、標準飼料摂取下に飼育したNrf2欠損マウスは、80週齢までの時点で死亡率、および主要臓器の老化関連マーカーの経時的変化に、野生型マウスとの間での差異を認めなかった。Nrf2は誘導型のストレス防御システムであり、本飼育条件ではNrf2活性化そのものが限定的であると考えられた。次年度研究では、Nrf2を活性化させたモデルを用いて、老化に及ぼす影響を検討した。野生型マウスに、Nrf2の誘導的活性化化合物としてスルフォラファンを投与し、清浄空気曝露、標準飼料摂取下に飼育した。同条件下でもNrf2誘導的活性化の有無による死亡率や老化関連マーカーの経時的変化に差異は見られず、非ストレス環境におけるNrf2活性化の老化に及ぼす上乗せ効果は限定的と思われた。3年目には、老化関連疾患として肺非結核性抗酸菌症モデルを作成し、死亡率等の検討を行った。Nrf2欠損マウスでは、野生型マウスに比べ、感染後の死亡率や肺病変の程度が高まっており、疾患に関連した老化に対し、抑制的に作用するものと思われた。
2: おおむね順調に進展している
本研究ではNrf2、特に肺で活性化されたNrf2の老化に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。初年度は非ストレス環境下におけるNrf2の動態と老化の関係を、2年度は非ストレス環境下におけるNrf2の誘導的活性化と老化の関係を、更に3年目は老化関連モデルにおけるNrf2の関りを段階的に評価できており、上記と判断した。
上述のごとく、初年度は非ストレス環境下におけるNrf2の動態と老化の関係を、次年度は非ストレス環境下におけるNrf2の誘導的活性化と老化の関係を、更に3年目は疾患モデルを作成、Nrf2活性化と老化の関連を、それぞれ明らかにしてきた。したがって、本年度研究では、上述の慢性感染症モデルを用いて、持続的な肺の酸化ストレスが主要臓器の老化を促進することを老化関連βガラクトシダーゼやp16INK4a等の免疫染色で明らかにしたい。同モデルにおけるNrf2補充を試み、死亡率や臓器老化が抑制されるかを検討し、Nrf2の老化におよぼす直接効果を明らかにしたい。更に、老化による酸化ストレス消去能の低下を確認するために、高齢マウスと若年マウスで同慢性感染症モデルを作成し、Nrf2の活性化の程度、および酸化ストレスの程度を測定し、両マウスで比較することで、実際に高齢に伴い酸化ストレス消去能が低下していることを確認したい。加えて、酸化ストレス関連分子の発現を網羅的に解析することで、老化に伴い低下するストレス防御システムを明らかにし、アンチエイジングへの礎としたい。
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Allergy
巻: 76 ページ: 2214~2218
10.1111/all.14715
mBio
巻: 12 ページ: e01947-20
10.1128/mBio.01947-20