研究課題/領域番号 |
18H03174
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深柄 和彦 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (70323590)
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研究分担者 |
村越 智 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (10647407)
安原 洋 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (50251252)
齋藤 祐平 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (90422295)
室屋 充明 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (90431866)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 低糖質高脂肪食 / がん性腹膜炎 / 腸管虚血再灌流 / プレハビリテーション |
研究実績の概要 |
低糖質高脂肪食は標準食に比べ、マウスがん性腹膜炎モデルにおいて、1)腹腔内腫瘤の増大、2)腹腔内炎症性メディエータレベルの上昇、3)がん免疫抑制性に働く腹腔内制御性T細胞数・M2マクロファージの増加をきたすことが判明した。これらと関連して予後の増悪を生じた。同様の免疫細胞の変化が、がん腫瘤内でも認められた。以上より、がん性腹膜炎における栄養療法として、低糖質高脂肪食の問題点が示唆された。 一方、同じ低糖質高脂肪食は、マウス腸管虚血再灌流モデルにおいて、1)血中サイトカインレベルの低下、2)臓器障害の軽減、3)アディポネクチンレベルの上昇、を生じ、生存を改善した。腸管の低灌流が生じる可能性がある大手術においては、むしろ低糖質高脂肪食による術前栄養管理が術後経過を良好にすることが示唆された。 腸管虚血再灌流前にトレッドミル走によるプレハビリテーションをおこなったマウスでは、非運動群に比べ、血中・腸管組織中のサイトカインレベルの低下、尿中酸化ストレス物質レベルの低下、臓器障害軽減、生存改善が認められた。一方、筋肉中のマイオカインレベルには大きな影響を及ぼさなかった。従来、プレハビリテーションは、筋肉の量と機能を向上させ、大侵襲後の早期活動性の回復につながることが注目されていた。今回の研究によって、プレハビリテーションが大侵襲時の炎症反応を調節し、臓器障害を軽減することが明らかになり、今後の周術期管理における運動療法の意義とありかたについて新たな知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん性腹膜炎モデルにおける栄養療法の効果について、低糖質高脂肪食の問題点が明らかになったが、脂肪の質による生体反応の違いが生じる可能性があった。そこで、これまで使用してきた標準的高脂肪食(ラード主体)に加え、魚油を豊富に含む高脂肪食、大豆油を豊富に含む高脂肪食の影響を同モデルで検討した。 その結果、大豆油群ではさらに炎症反応の増悪、腫瘤増大を認めたが、魚油群では逆に炎症反応の軽減と腫瘤増大抑制が認められた。低糖質高脂肪食の脂肪の質ががん性腹膜炎の進展に影響を与えることから、臨床における進行がん患者の栄養管理のあるべき姿に関して重要な知見が得られた。 プレハビリテーションに関しては、運動療法にさらに栄養療法を加えた検討を行っている。 すなわち、トレッドミル走の期間に、炎症反応を軽減させる効果がこれまで示されているホエイ蛋白を豊富に含む食餌を投与し、腸管虚血再灌流時のさらなる炎症反応の軽減と予後改善が生じるか否かを調べている。
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今後の研究の推進方策 |
がん性腹膜炎における低糖質高脂肪食の影響については、一定の成果をあげることができた。しかし、まず低糖質高脂肪食を一定期間投与してから、腹腔内にがん細胞を接種するモデルでは、臨床における「がん性腹膜炎が生じている状態で、特殊な栄養療法を開始する」という状況をそのままシミュレーションすることができない危険性がある。 そこで、今後は、先にがん性腹膜炎を作成したうえで、特殊栄養療法を開始することを予定している。より臨床の実際に合致したモデルで検討することで、低糖質高脂肪食の意義がさらに明らかになると期待される。 プレハビリテーションについては、ホエイ蛋白の同時投与によってむしろ侵襲後の炎症反応増悪・予後悪化が認められる傾向があるので、その機序を明らかにするため、heat shock protein, autophagyの観点から生体反応を精査する。また、他の特殊栄養素を投与することで、運動療法の効果をさらに増強することを目指し、アルギニン強化食餌等を用いる予定である。
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