研究課題
我々が作成したグルカゴン遺伝子欠損動物モデル(GCGKO)においてはニコチンアミドNメチルトランスフェラーゼ(NNMT)の発現が著しく低下しており、グルカゴン欠損による代謝リモデリングの一部にニコチンアミド 代謝異常が関与する可能性が示唆されてきた。これまでに、NNMTを肝臓特異的または全身で欠損するマウス(NNMT-LKO [liver knock out]・NNMTKO)の解析を進めたが、糖・アミノ酸代謝の明らかな異常を認めなかった。2019年にドイツのグループが我々のデータと似た結果を報告している(Diabetes 68:527, 2019)。2019年度は、グルカゴン遺伝子・NNMT遺伝子二重欠損動物(GCG/NNMT DKO)の作成・解析を行った。GCGKOでみとめられるアミノ酸代謝関連遺伝子の発現異常はNNMTKOで認められなかったことから予測されたように、GCG/NNMT DKOとGCGKOの間においてもアミノ酸代謝関連遺伝子の発現の差は認められなかった。この結果より、アミノ酸代謝制御機構とニコチンアミド 代謝制御機構の間に強い相互作用はないことが示唆された。GCGKOは加齢とともにグルカゴンの代わりにノックインされたGFPを発現する膵島内分泌細胞の過形成が進行して膵臓内分泌腫瘍の形成に至る。2019年にNNMTがCAF(Cancer-associated fibloblast)における代謝の腫瘍制御因子であることが報告されたため(Nature 569:723, 2019)、GCG/NNMT DKOにおける腫瘍形成についても解析したが、GCGKOとGCG/NNMT DKOの間に腫瘍発生時期や腫瘍サイズ、生命予後に明確な違いは認められていない。
2: おおむね順調に進展している
2019年度までにNNMT遺伝子欠損マウスおよびグルカゴン遺伝子・NNMT二重欠損マウスの表現型解析について、研究実績の概要に記載したように期待とは異なる方向ながら一定の結果を得ている点をもって、概ね順調に進んでいるとした。2020年度以降は生体の恒常性維持におけるグルカゴンの役割の新たな側面とその機構の解析へ対象をシフトして研究を推進することにより、改めてグルカゴンによるニコチンアミド 代謝制御の生理的意義づけが進むことを期待している。
NNMTが肥満や脂肪肝に関与することが報告されている一方(Nature 2014, 508:258-62, Sci Rep 2018, 8:8637)、我々自身のデータやドイツのグループによる報告(Diabetes 68:527-42, 2019)は、通常食餌の下ではNNMT欠損するマウスが明確な表現型を示さないことを示している。また、NNMTの発現がグルカゴンによって制御される一方、NNMTの欠損は、単独でもグルカゴン遺伝子欠損状況でもアミノ酸代謝制御に大きな影響を及ぼさないことが明らかとなった。ニコチンアミド関連代謝物質の濃度を高い信頼性で測定するコストが高い現状を鑑みて、NNMT遺伝子欠損マウスに関する今後の解析は共同研究ベースを中心とする。一方、グルカゴンによるアミノ酸代謝制御機構の詳細は解明されていないため、この解析を2020年度以降の研究の主な対象とする。具体的には、これまでにGCGKOと野生型の比較から得られた情報とは異なった視点からのデータを得るために、GCGKOに対するグルカゴン急性投与実験を行い、その解析を中心に進める。従来と同様の肝臓内の細胞内シグナル伝達解析を行う一方、GCGKO vs Control, GCGKO vs GCGKO+glucagonの遺伝子発現を新たにRNAseqにより比較し、Integrative Genomics Viewer等を利用して、遺伝子発現変化のみならずスプライシングの変化も含めて解析する。このほかに共通機器として呼気ガス(13CO2の解析が可能)・運動量・摂餌量・飲水量測定システムが導入されたため、同システムを利用して、アミノ酸代謝を中心としたグルカゴンによる代謝制御機構の解明を進めたい。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (5件) (うちオープンアクセス 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件)
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