研究課題/領域番号 |
18H03183
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
登美 斉俊 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (30334717)
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研究分担者 |
野口 幸希 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (10803661)
伊藤 直樹 帝京大学, 医学部, 講師 (20529177)
牟田 真理子 帝京平成大学, 健康メディカル学部, 准教授 (40445193)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アミノ酸トランスポーター / 胎盤関門 |
研究実績の概要 |
胎盤関門においてトリプトファン(Trp)輸送を担う可能性が高いLAT輸送体のタンパク発現分子数を定量した結果、ヒトおよびラット胎盤関門において、LAT1およびLAT2タンパクの発現分子数定量に成功した。ヒトではLAT1およびLAT2の発現分子数が共に高かったのに対し、ラットにおいてはLAT1の発現量がLAT2に比べて数倍高いことが示された。げっ歯類胎盤における免疫染色においても、LAT1は胎盤関門の母体側細胞膜において高く発現していたのに対し、LAT2の発現は明確には示されなかった。さらに、LAT1が同様に高く発現している血液脳関門においては、血中アミノ酸濃度の変動がLAT1を介した脳への輸送速度を制御していることを、実験的に明らかにした。これらの結果は、LAT基質アミノ酸の総量に対するTrp存在比率(%)で定義されるTrpインデックスが、胎児など組織関門で制御されている領域へのTrp供給量、そしてキヌレインおよびセロトニン濃度を規定するとの仮説をサポートする成果として、重要である。 日本食品標準成分表に基づきTrpインデックスを算出したところ、食品の種類によってTrpインデックスは5倍以上異なっていた。得られたTrpインデックスに基づくと、Trp欠乏を補う食品としては通常、タンパク質に富み、Trpのアミノ酸スコアが100%を満たす魚・肉・大豆などが同列に推奨されるが、Trpインデックスがより低い魚類や肉類と比較して、高い大豆が望ましいといったより適切な指導が可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標として最も重要な、Trp胎児移行に関わる主要輸送体のタンパク発現分子数の定量に成功した。その結果、LATの中でも特にLAT1が重要な役割を果たしていることをタンパクレベルで見出すことができ、申請者が提唱するTrpインデックスの有用性を裏付けることができた。そのため、進捗状況としてはおおむね順調であると判断している。ただし、ヒト胎盤においてはLAT1だけでなくLAT2も重要な役割を果たしている可能性が高いことが示された。LAT2の発現が血中アミノ酸濃度とTrp胎児移行との関係にどのような影響をもたらすのか、2019年度にモデル細胞を用いて解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
胎盤関門細胞膜に高く発現することが示されたアミノ酸輸送体LAT1およびLAT2を発現する、ヒトおよびラット由来胎盤モデル細胞株をLAT選択的阻害剤共存下で培養し、LATを介したTrp の取り込み輸送が細胞内キヌレインおよびセロトニン産生量に与える影響を明らかにする。さらに、細胞をTrpインデックス2.5%の通常培地、Trpインデックス5%培地、あるいはアミノ酸強化培地(ただしTrpインデックス2.5%)で培養し、細胞へのTrp取り込み活性および、細胞内キヌレニンおよびセロトニン産生量の定量を行う。解析を通じて、細胞外Trp濃度ではなく、TrpインデックスがTrp細胞内取り込み量を規定しており、さらに、細胞内キヌレニンおよびセロトニン産生量を制御していることをin vitroで実験的に証明する。 Trpインデックスが高い食品および高たんぱく食品を模倣した食餌として、Trpインデックスの高い飼料あるいは、Trpインデックスは変わらないがTrp含有量は増加させた飼料を調製する。これら飼料を妊娠マウスの食餌とし、食餌変更後の母体・胎児血漿中アミノ酸濃度の変動をHPLCを用いて解析する。血漿中アミノ酸濃度を母体と胎児で比較することで、Trpインデックスの変動が胎盤関門LATを介したTrp移行に与える影響を明らかにする。さらに、母体脳、胎盤、胎児脳を採取し、アミノ酸、キヌレニン、セロトニン濃度の評価を行うことで、Trpインデックスとの相関を解析する。以上の研究を実施することで、食事中のTrpインデックスが、胎児におけるキヌレニンおよびセロトニン動態にどの程度影響するのか、明らかにする。
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