研究課題
C2C12培養骨格筋細胞を用いてBDNFの細胞内局在を観察した。BDNFの免疫染色を行い、超解像顕微鏡で観察したところ、ミトコンドリア内にBDNFが存在することが確認できた。さらに、マウスの下肢骨格筋を用いて、超遠心によるミトコンドリア分画の単離を行い、BDNFのウエスタンブロットを行ったところ、BDNFのタンパク発現が確認された。したがって、BDNFは骨格筋細胞のミトコンドリア内に存在することが証明された。次に、C2C12をカフェイン刺激(500mM, 24時間)を行い、培養上清のBDNFタンパク発現を評価したところ、カフェイン刺激5時間後からBDNF発現が確認された。このBDNFの発現は骨格筋収縮を抑制するブレビスタチンの同時処置によって、完全に抑制された。したがって、骨格筋の収縮によって骨格筋からBDNFが分泌されることが明らかとなった。BDNFによる細胞内シグナル伝達を明らかにするために、C2C12培養細胞を用いてヒトリコンビナントBDNF(hrBDNF)を処置して解析を行った。hrBDNF処置によって、AMPKリン酸化が亢進し、PGC1タンパク発現が増加した。さらに、ミトコンドリア生合成や脂肪酸酸化にかかわる遺伝子発現は増加した。また、ミトコンドリアのCS活性が増加した。TrkB受容体ノックダウンやTrkB受容体拮抗薬投与によって、これらのrhBDNFの効果は消失した。さらに、AMPK抑制薬によってもPGC1タンパク発現やミトコンドリアCS活性に対する効果は消失した。さらに、心筋梗塞後心不全モデルマウスを作成し、rhBDNF投与により運動能力が改善することを明らかにし、そのphenotypeに関するデータをCirculation誌へ発表した。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要で示した通り、当初予定していた、①BDNFの細胞内局在の解析、②筋収縮による骨格筋細胞からの分泌、③BDNFによるTrkB受容体を介したシグナル伝達のおおよその研究に着手し、仮説通りの結果を得ることができた。
当初の予定通り研究を進めていく予定である。次年度は、BDNFによるミトコンドリア内タンパクのアセチル化に関する研究を行う。特に、脂肪酸代謝に関わる酵素のアセチル化にBDNFが関与しているかどうかを中心に解析を進める。また、一部本年度に研究を進めたが、骨格筋異常を呈する動物モデルを用いた解析も行う。高齢マウスモデル、心筋梗塞後心不全モデル、BDNFヘテロ欠損マウスを用いて、骨格筋異常とBDNFとの関連を検討する。現時点で研究遂行上問題となる点はない。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Circulation
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