研究課題
肝臓特異的Elovl6欠損(LKO)マウスに高ショ糖食(HSD)を給餌すると、Floxマウスに比べてLKOマウスでは血糖値の低下およびインスリン感受性の亢進が認められた。このインスリン感受性の亢進は肝臓で認められ、インスリン刺激による肝臓のAktのリン酸化はFloxに比べてLKOマウスで有意に上昇した。マイクロアレイ解析により、HSDで発現が著明に増加し、かつFloxに比べてLKOマウスで発現が低下する遺伝子Xを見出した。アデノウイルスを用いてLKOマウスの肝臓にXをFloxと同程度に発現させると、HSDによるLKOマウスのインスリン感受性の亢進がキャンセルされた。肝臓の脂質メタボローム解析により、Elovl6の欠損およびXの補充により変化し、インスリン感受性と相関する脂質Yを見出した。また、脂質Yをヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞にふりかけると、インスリン感受性が低下することを確認した。この作用は、脂質Yがあるタンパクに結合し、Aktのリン酸化を抑制するためであることを見出した。以上の結果から、Elovl6は、肝臓において、脂肪酸de novo合成系を介した脂肪酸組成変化により、遺伝子Xおよび脂質Yを介してインスリン感受性を制御する可能性が示唆された。膵β細胞特異的Elovl6欠損(βKO)マウスは、通常食で飼育した場合、体重、血糖値、インスリン値、耐糖能、膵臓ラ氏島の病理像、単離ラ氏島の数・大きさはFloxマウスと違いはなく、正常であった。一方、βKOマウスを2型糖尿病モデルdb/dbマウスと交配したところ、β細胞におけるElovl6の欠損により、db/dbマウスの高血糖の改善が認められた。今後、糖代謝パラメーターおよび膵臓ラ氏島(β細胞)の組織学的変化を経時的に解析する。
2: おおむね順調に進展している
肝臓特異的Elovl6欠損マウスについては、肝臓のインスリン感受性を制御する脂質とその分子機序が明らかにされつつある。膵β細胞特異的Elovl6欠損マウスについては、db/dbマウスとの交配により糖尿病の発症が抑制される予備結果を得ている。
肝臓特異的Elovl6欠損マウスについては、これまでの研究成果を論文発表するとともに、より高精度で網羅的かつ包括的な脂質メタボローム解析により、Elovl6が重要な役割を持つ新たな脂質代謝経路やインスリン感受性制御脂質、オルガネラ機能制御脂質を探索する。また、脂質Yが肝臓から血中に分泌されて他の臓器のインスリン感受性を制御するのかを検証するために、以下の実験を行う。①FloxおよびLKOマウスの肝臓以外の臓器(骨格筋、白色・褐色脂肪組織、脳など)におけるインスリン感受性を解析する。②FloxおよびLKOマウスの血液サンプルの脂質メタボローム解析を行い、肝臓との比較検討を行う。③肥満モデルob/obマウス、2型糖尿病モデルdb/dbマウス、高脂肪食給餌マウスなどの肥満・2型糖尿病モデルマウスの肝臓および血中の脂質Yの濃度を質量分析装置で定量する。④脂質Yを内包したリポソームをマウスに静注し、全身および各臓器のインスリン感受性を解析する。膵β細胞特異的Elovl6欠損マウスについては、2種類の2型糖尿病モデル(①db/dbマウスとの交配モデル、②高脂肪食と少量のストレプトゾトシン投与の併用モデル)を作製し、糖代謝パラメーターおよび膵臓ラ氏島(β細胞)の組織学的変化を経時的に解析する。また、耐糖能や糖尿病病態に変化が認められた条件のマウスからラ氏島を単離し、インスリン分泌能、インスリン含量、遺伝子発現プロファイル、脂質プロファイルを解析し、Elovl6の活性や糖尿病病態にともなう脂肪酸組成の変化が最も強く反映されている脂質分子とその構成脂肪酸分子種を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件)
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