研究課題/領域番号 |
18H03191
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
西山 成 香川大学, 医学部, 教授 (10325334)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生体老化 / 腎臓病 / カタボリズム / 代謝異常 |
研究実績の概要 |
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD)の患者数が高齢化に伴って世界規模で増加しているが、CKD患者では筋肉量が劇的に低下しており、生存率に関与することも明らかとなってきた。このようなCKDに伴う生体老化反応対して最近、申請者は食塩を過剰摂取した場合には、体液量の恒常性を維持するために筋肉の蛋白質分解(筋肉量の減少)を介した肝臓での尿素・内因性の産生(異化)を生じることを発見し、「腎肝筋ネットワーク」と名付けている(J. Clin. Invest. 2017)。
一方で、最近の申請者の予備検討において、このような状態は、腎機能が低下した際にも同様に生じていることが示されている。すなわち、CKDモデル動物では、筋肉が自身を分解して尿素を産生し、体液バランスを保つシステムが働いていると考えられる予備データを多く得ている。申請者らは、腎障害の早期から相対的な食塩過剰状態になっており、尿素と体液の喪失に対応するために、筋肉が尿素産生を亢進させるのではないかと考えている。
このように腎臓病のような老化によって生じる身体の反応と全身の代謝の変化の関係を解明することが、生体老化に対する新しい予防・治療法の開発につながると考えられ、本研究期間内では特に「異化に伴う筋肉融解」と「慢性腎臓病における食塩バランスの異常」との関連に着目し、その詳細なメカニズムの探索することを目的とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下の成果を得た。 ① 腎性貧血CKDモデルマウスにおける体内代謝変化の評価:腎性貧血CKDマウスでは、腎機能の低下に伴い筋肉低下を生じたが、肝臓での尿素産生酵素であるアルギナーゼ増加を伴っていた(肝腎筋ネットワークの発動)。また、骨もナトリウムのリザーバーになっていることが世界で初めて示された。 ② 5/6腎摘CKDモデルラットにおける体内代謝変化の評価:多尿期CKDのモデルとして、5/6腎摘ラットにおいて体内代謝変化を評価した。CKDラットでは皮膚や骨でのナトリウム蓄積が増加しており、尿濃縮の低下を伴う尿量増大と筋肉低下が生じた。 ③ Dahl 食塩感受性高血圧 (DSS) ラットでの検討:DSS ラットに高食塩を摂取させると、筋肉量低下、高血圧、アルブミン尿の発症に腎交感神経系の活性化が伴っていた。腎交感神経除神経術は 高食塩による筋肉量や体重の低下を顕著に抑制し、有意な心拍数の減少を生じた (Hypertens Res 2020)。 ④ メカニズム解析-1:腎交感神経の関与:マウスにおいて、腎交感神経切除によって食塩負荷に伴う肝臓のアルギナーゼ活性と尿素産生(肝腎筋ネットワークの発動)が生じないことが明らかとなり、腎交感神経が何らかのメカニズムによって、高食塩摂取に伴う肝臓でのカタボリズムを制御していることが示唆された(2019年日本腎臓学会発表)。 ⑤ メカニズム解析-2:肝臓交感神経の関与:肝臓の交感神経を除神経しても、食塩負荷によって生じる肝臓のアルギナーゼ活性や尿素産生に有意な影響を与えなかった。すなわち、腎交感神経は高食塩摂取に伴う肝臓でのカタボリズムを制御しているが、中枢を介した肝臓交感の神経活性化によるものではないことが示唆された(2019年米国心臓財団にて発表)。
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今後の研究の推進方策 |
それぞれ進めているプロトコールについて、下記のように進めていく予定である。 ① 腎性貧血CKDモデルマウスにおける体内代謝変化の評価:2019年度までに骨もナトリウムのリザーバーになっていることが示唆されたが、骨のナトリウムの果たす役割などの詳細については全く不明であることから、2020年度は骨そのものと骨髄に分けた検討を実施し、詳細な病態生理を明らかとする。 ② 5/6腎摘CKDモデルラットにおける体内代謝変化の評価:肝臓のメタボローム解析と皮膚の機能解析により、腎機能の低下によって生じる代謝異常は、サルコペニアのみならず、高血圧まで生じているかどうかについて検討実施する。 ③ Dahl 食塩感受性高血圧 (DSS) ラットで生じるCKDのモデルでの検討2020年度は長期生存率などの検討を実施し、より詳細な病態生理を明らかにしていく。また、骨格筋、皮膚、骨のナトリウムの含有量について、各群で比較検討を実施する。 ④ メカニズム解析-1:腎交感神経の関与:2020年度は皮膚、骨、筋肉におけるナトリウムの分布の変化について評価し、高食塩投与でも肝腎筋ネットワークの発動しない場合の生体での体液調節の詳細について検討を進める。 ⑤ メカニズム解析-2:肝臓交感神経の関与:前年度までの実験において、その後の研究によって、肝臓組織内のノルエピネフリン含有量が肝臓の交感神経を除神経でも減少していない個体が多く存在していることが明らかとなった。すなわち、肝臓交感神経の除神経がうまく実施できていない可能性があるため、2020年度は再度一から実験をやり直し、再度確証データを得る。
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