研究課題/領域番号 |
18H03274
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
神原 誠之 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (10346306)
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研究分担者 |
佐藤 弥 京都大学, こころの未来研究センター, 特定准教授 (50422902)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 対話エージェント / 行動変容 / 心理評価 / 潜在意識 / 長期対話 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、対話ロボットとの利用意欲の向上を実現する対話技術を実現するために、研究項目① 対話における潜在意識の心的変容の検討、研究項目② 対話における顕在意識の心的変容の検討、に着手した。以下に各研究項目の研究実績を詳述する。 研究項目① 対話における潜在意識の心的変容の検討:心理学や介護福祉分野において用いられる潜在的に相手と親和性を向上する技術であるペーシングに着目し、カウンセリングなど1対1での対話場面において,ラポール(信頼関係)を形成するためにカウンセラーがクライアントの話し方や呼吸などのペースを合わせるアプローチを対話ロボットで実現する手法を開発した。話し手のピッチ、話速、音量のパラメータを計測し、話し手と同様発話を実現するペーシング技術をロボットに実装し、実験においてペーシングを適用したロボットと対話をした際の印象評価を、主観的・客観的指標を用いて行った。 研究項目② 対話における顕在意識の心的変容の検討:これまで開発しているTV雑談エンジンの高度化を進めるとともに、利用者の対話内容の評価を収集するために、 TV雑談スマホアプリ・Webアプリの開発を継続して実施した。さらに、利用者の対話意欲の向上に影響する心的要因である「共感」に着目し、TV視聴時の雑談において、エージェントとの共感を生む出す環境構築を実施した。具体的には、番組内の実況音声やソーシャルメディアのコメント内容・量に基づいて,番組の盛り上がりや爆笑の雰囲気を推定する。たとえば、スポーツ中継などの番組視聴時に、加点やファインプレーなどが発生した際に番組内の実況音声の韻律を模倣することで,場面に感情を移入したようにロボットを発話させることができる。また,ロボットが単体のみだけでなく、複数存在する際の,盛り上がり共有の効果の予備検証を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目① 対話における潜在意識の心的変容の検討、研究項目② 対話における顕在意識の心的変容の検討に関する進捗状況を詳述する。 研究項目① 対話における潜在意識の心的変容の検討:主観的評価においてペーシングを適用したロボットとの対話の方が適用しなかったロボットとの対話と比較して,「親しみやすいか」「対話は楽しいか」「繋がりを感じたか」「自分に同調していたか」「継続的に利用したいと思ったか」「話を聞いている感じがするか」の各項目に有意な差が見られた。客観的評価においてはペーシングを適用したロボットの方が適用しなかったロボットと比較して、心拍のストレス指標であるLF/HF の被験者間平均値に有意な差が見られ、ペーシングを適用したインタラクションはユーザとロボットの信頼関係を構築する上で有効であることが示された。 研究項目② 対話における顕在意識の心的変容の検討:これまで開発しているTV雑談エンジンの高度化を進めるとともに、利用者の対話内容の評価を収集するために、 TV雑談スマホアプリ・Webアプリの開発を継続して実施した。さらに、TV雑談スマホアプリ(Andorid、iPhone版)、Webアプリ「だべらいぶ」、および、フィジカルロボット(身体を持つロボット)に雰囲気共有として、「盛り上り」・「爆笑」環境を共有する機能を開発し、評価実験を実施した。その結果、盛り上がり・爆笑の両条件において,雰囲気共有をロボットに適用した場合、非適用時に比べユーザが雰囲気に対して受け取る感情の変化に,ロボットが追従し、ユーザから共感を得られる可能性が示唆された。盛り上がり表現の評価においては、雰囲気共有非適用時よりも、適用した際のロボットの方が、ユーザが受ける盛り上がりの印象を強めることがわかった。雰囲気共有におけるロボットの視差がユーザに対する盛り上がり・爆笑の印象の向上に影響する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目① 対話における潜在意識の心的変容の検討、研究項目② 対話における顕在意識の心的変容の検討、研究項目③ 対話における心的変容の評価・実験、に関する今後の研究方策を詳述する。 研究項目①では、対話ロボットによるペーシングの効果の評価実験を進めるとともに、ペーシングと同様に心理学分野で提唱されている、相手の感じている感情を見た目の動作や姿勢、表情を真似ることで、聞き手が話し手を理解する手法であるミラーリングに着目する。対話エージェントの身振りが利用者に与える心的変容に関して検討を行う。評価項目として、利用者の身振りを身体性のある対話ロボットに実装し、対話時の心理的変容を評価する。身振りの計測に画像処理よる表情・ジェスチャー計測を行い、実時間で対話ロボットの身振りに反映させ、研究項目③で開発する心的変容の主観的・客観的の評価手法により、ミラーリングの効果を解析する。 研究項目②では、雰囲気共有技術の効果の被験者実験を通じて更なる検証を進めるとともに、TV雑談エージェントに関して、過去の対話におけるユーザのフィードバックに基づいて、コメントを自動評価し、より魅力的な対話文を生成する手法の開発を実施する。さらに、ユーザ発話に対して感情ラベルの付与とテキストの書き起こしを行い、それらを学習データとした感情識別処理を導入し、より魅力的な発話文の生成手法の開発を行う。 また、利用者の対話意欲を向上させる各要因には個人差が発生するため、エージェントの適切な対話手法を決定するために、個人に適応した対話モデルを構築することで、個人差による対話意欲の影響の違いに適応する。具体的には、エージェントとの対話への順応過程、および対話意欲に関する心理変化の検証を実施する。その後、生理指標の実時間計測結果をモデル化し、研究項目①②で開発した対話技術を組み合わせたエージェントを利用した評価に着手する。
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