小型船舶の海難事故件数が減少傾向にある一方、高齢の操船者による海難事故が近年増加している。海難事故で最も多いのが衝突海難であり、その原因の大半はヒューマンエラー、つまり操船者の過失によるものである。高齢操船者のヒューマンエラーは、認知機能の低下、反応動作の衰え、視野狭窄等の要因が複合して誘発されると考えられる。しかしながら従来の小型船舶の操舵系は、車両の操舵系などに比べて外部刺激が圧倒的に少なく、常に状況認識のレベルを高く保つ必要があるため高齢者にとって負担が大きい。本研究ではAR(拡張現実)技術を用いて効果的な視線情報を提示することで、加齢により低下した身体能力の補完支援を行うことを目的としている。
今年度は操船システムの動作環境として、シミュレータの制作・開発を行うことで、実環境での操作に近い運転環境の再現を目指した。操船環境の再現に向けてWIZAPPLY株式会社の6軸モーションシミュレータであるSIMVR 6DOFをベースとして用い、必要な機器を設置するための部品を設計・追加しつつ製作を進めた。シミュレータソフト及び評価用テストコースの開発にはゲームエンジンであるUnityを用い、SIMVR 6DOFとの連動を行い、実環境での動作再現を試みた。また操船者の居眠りを防止するため、カメラで撮影した映像を用いて操船者の眠気を検知する機能の開発を行った。まずWebカメラを用いて操船者の映像を取得し、映像に対してOpenCVの顔検出器を用いてフレーム毎に顔検出を行った。続いて、顔が検出された場合にdlibのランドマーク検出機能を用いて、顔の中の目や口などの特徴点の座標を取得した。さらに得られたランドマークの結果から、目の周辺の6点の座標を使用し目のアスペクト比を算出した。最後に被験者による評価実験を行い、本システムの有効性を確認した。
|