本研究の目的は,感覚間相互作用により身体感覚を変調させ,実際の身体運動で生じる感覚情報との利得調整を行うことで,身体の物理的な空間移動や筋への運動指令を全く用いることなく,錯覚的に擬似的な身体移動体験を創出する手法の確立と適用限界の検証,そしてそのための客観的指標の提案と有効性の検証である. 前年度および研究期間延長となった本年度は,オンライン状況での実験の整備を進めるとともに,下肢や足を被刺激部位としたときに生じる歩行感覚を対象として,足底への振動刺激提示と反応時間の計測を可能とするシステムでの実験を継続して実施した.足底への振動刺激提示のうち特定の振動波形のときに歩行感が生成できることを主観評定の結果から確認し,歩行のような周期性が重要であることと,単なる正弦波振動ではなく歩行音の振動が歩行感の生成には重要であることが確認された.さらに,自分の身体に接近する音を聞きながら身体付近の触覚刺激を検出する課題で,反応時間の縮減から身体近傍空間の境界の拡張を推測した.また,旋回型のモーションプラットフォームを用いて,VR映像をHMDで提示しながら,疑似歩行感覚の生起効果と方向転換への適応可能性を調べた. 最終年度のため,これまでの成果についての招待講演を5件,また書籍の分担執筆を3件実施した.さらにオンライン状況での実験を含め,No Motion VRという観点からこれまでの研究成果と関連研究とを議論するオーガナイズドセッションを企画し,今後の発展的研究の弾込めを行った.
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