研究課題/領域番号 |
18H03307
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
宮野 尚哉 立命館大学, 理工学部, 教授 (10312480)
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研究分担者 |
堀尾 喜彦 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (60199544)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 暗号通信 / カオス / 同期 / 暗号鍵配送 |
研究実績の概要 |
本研究は、post-quantum cryptographyを指向して、暗号文作成、秘密鍵交換、および、送信者認証をカオス動力学モデルによって実現するストリーム暗号カオス総合システムの実証的研究である。システムの基本要素は拡張ローレンツ振動子であり、その構造を特徴付ける2進係数ベクトルが秘密暗号鍵となる。 拡張ローレンツ振動子による疑似乱数生成を高速化するために、拡張ローレンツ振動子を写像モデル化した。これによって、疑似乱数生成速度は10倍以上に高速化された。疑似乱数の安全性は、標準的手法であるNIST SP800-22およびTest U01 BigCrushテストによって統計的に確認された。拡張ローレンツ写像モデルのハードウェア化について基本設計を行い、現在、ハードウェアを開発中である。設計構想としては、USB等に実装された半導体集積回路によって疑似乱数を生成し、暗号通信用ソフトウェアと協同して暗号文生成を行うようなシステムとなる予定である。 暗号鍵交換は、異なる2進係数ベクトルで特定される拡張ローレンツ方程式に従う振動子のそれぞれを所有する送信者および受信者間で、振動子間の部分カオス同期を導入することによって行う。2018年度は、約50km離れた2地点間に設置されたパソコン上に実装されたソフトウェア間で間歇的にカオス信号を交信することによって暗号鍵交換を行う実証実験を行い、90%以上の確率で暗号鍵共有が可能であることを確認した。しかしながら、暗号鍵解読方法を工夫すると盗聴者が暗号鍵を同定できることが明らかとなった。この問題を解決することが次年度の課題である。 本件に関連し、査読付き論文2報(英文1報,和文1報),国際会議発表2件,国内学会・研究会6件の研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の研究計画において想定した成果が得られており、概ね順調に研究は進展していると評価できる。ただし、部分的カオス同期による暗号鍵交換に関しては、実際に、暗号鍵交換実証実験と暗号鍵解読実験を行った結果、本件申請時に想定していた暗号鍵交換手法は盗聴者によって破られることが明らかとなった。セキュリティの高い暗号鍵交換方法は量子鍵配送であるが、量子鍵配送は設置および運用コストが高く、現在、一般のユーザが利用するにはコスト面での障壁が高いので、今後、部分カオス同期に基づく暗号鍵交換方法を改良する必要がある。現在、有効と思われる改良法のセキュリティを検討中である。 申請時には、暗号文作成に利用する疑似乱数は、常微分方程式としての拡張ローレンツ方程式を数値積分して得られるカオス時系列から生成することを想定していたが、拡張ローレンツ方程式の写像化に成功した。また、拡張ローレンツ写像のハードウェア化について見通しが立っており、2019年後半にはハードウェアのプロトタイプが得られる予定である。これらの成果は、本件の申請時の研究計画において期待されたものである。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に達成された研究成果に基づき、2019年度は以下の研究課題の解決を目指す。 (1) 秘密鍵交換をカオス部分同期に基づいて実行するアルゴリズムを改良し、暗号鍵誤り訂正機能を付加したソフトウェアをC言語およびJava言語を用いて作成する。このソフトウェアを用いて、研究代表者と連携研究者、および、研究分担者が所属する機関間で暗号鍵交換実験を行い、その安全性を実証的に検証する。暗号鍵交換方法の弱点が解決されれば、同じ手法を送信者認証に応用し、カオス同期に基づいた送信者認証方式を開発する。
(2) 拡張ローレンツ写像モデルをデジタルハードウェア上に実装し、デジタルハードウェアによって疑似乱数生成速度と安全性をNIST SP800-22およびTest U01 BigCrush testによって統計的に評価する。 (3) 疑似乱数生成、平文の暗号化、および、秘密鍵交換を一体的に実行するハードウェア・ソフトウェア混在型ストリーム暗号システムを構築し、暗号通信実験を行う。 (4) 秘密鍵交換への量子鍵配送の応用可能性を検討し、例えば、東京QKDネットワーク等を利用して実証実験が可能かどうか調査する。利用可能ならば、実証実験を企画する。
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