研究課題/領域番号 |
18H03312
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
満上 育久 広島市立大学, 情報科学研究科, 教授 (00467458)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 注視推定 / e-learning / 視覚探索課題 / ドローン / 人物行動解析 |
研究実績の概要 |
前年度までに構築した眼球頭部協調運動モデル化による視線推定技術をさらに発展させ,視線方向の確率分布を推定する技術を開発した.これにより,従来法の問題となっていた「同一の頭部運動であればその際の視線方向は一意である」という仮定を取り払うことができ,また,確率分布の広がりにより視線推定の確からしさを評価できるようになった.また,実環境注視行動データセットおよびVR環境注視行動データセットそれぞれを用いてモデルを構築し,その互換性を調査した.
全身運動の計測については,昨年度までに実現した複数台Webカメラを用いたモーションキャプチャシステムと人物自動追従ドローンの技術を統合し,複数台ドローンカメラによるモーションキャプチャシステムを開発した.従来のモーションキャプチャシステムが,専用の機材を設置した限られた空間内でしか人の三次元姿勢を計測できなかったのに対して,このシステムは原理上,屋内外問わず人が広範囲を移動しても常にそのそばにドローンが自動追従することでどこでも三次元姿勢の計測が可能になるため,大きなアドバンテージがあると考えられる.
VR視覚探索課題による心の健康状態推定については,昨年度までに確認した「VR環境下での視覚探索において,視覚探索時間が人の主観的幸福度の高低により有意に異なる」という知見を論文にまとめ,バーチャルリアリティ学会論文誌に採択・掲載された.その後の展開として,視覚探索時間が主観的幸福度の高低により異なるメカニズムを解明に取り組んだ.具体的には,仮説として縦方向のcrowding effectが影響していると考え,従来よりも視覚探索課題の探索空間を縦方向に拡げて実験参加者データを収集し,分析を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
眼球頭部協調運動のモデル化による視線推定・視線確率分布推定については,これまでに構築した実環境注視動向データセットおよびVR環境注視行動データセットを用いた学習・評価が可能で新たなデータ収集が不要だったことから,順調に開発が進んだ.頭部方向を注視方向とみなすという単純な方法よりも大幅な視線推定精度の向上が確認されたことは期待以上の成果であった.
複数台ドローンを用いたモーションキャプチャについては,その有効性を確認するための最小限の実験を行うことはできたが,コロナ禍の影響により十分な性能評価ができなかった点で,やや期待を下回る結果となった.
VR視覚探索課題による心の健康状態推定については,本年度取り組んだcrowding effectの仮説検証において,これまでのところこれが視覚探索時間の差に影響を及ぼしているという客観的データは得られなかった.
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今後の研究の推進方策 |
眼球頭部協調運動のモデル化による視線推定・視線確率分布推定は,本年度までにその効果は十分に確認できたため,これを誰もが容易に利用できるよう, Pythonのライブラリの形に整備する予定である.特に,この技術はアイトラッカーを備えない市販のVRゴーグルにおいて視線を推定するという用途に有用なため,そのような用途を想定してライブラリを設計・実装する.
VR視覚探索課題による心の健康状態推定において,これまではVRゴーグルから得られる視覚探索時間や頭部運動を対象とした分析しかできなかったことが分析の大きな妨げになっていた.しかし,上述の視線推定ライブラリにより,これまでに収集した実験参加者の頭部運動からも視線推定が可能となる.今後は,これにより復元された視線軌跡を用いて分析を進める予定である.
複数台ドローンを用いたモーションキャプチャについては,計測対象の人物の歩行開始・終了時など速度変化が生じるところで自動追従に遅れが生じ,それが三次元姿勢推定やその後の歩行分析の妨げになることがあったことから,そのような速度変化においてもスムーズに自動追従するための人物の未来位置予測技術やそれに基づくレスポンスのよい自動追従制御技術を開発する予定である.
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