研究課題
生物の脳がバイオ素子に基づいて高次情報処理を実現するメカニズムの理解は,医学・生物学のみならず,工学の観点からも重要性が増している.本研究の目的は,神経回路網を多細胞システムとして捉え,その情報処理をボトムアップに解析する実細胞実験系を構築することにある.これを実現するためには,まず,神経細胞の初代培養系における非生理的な同期発火を抑制するための細胞パターニング法を確立し,生体脳に類似した複雑な時空間パターンを安定に保持する神経回路を構築する必要がある.初年度の平成30年度はまず,神経回路が無入力状態において生成する自発活動の解析に注力し,複雑な自発発火パターンを安定に保持する培養神経回路の作製に取り組んだ.ここでは特に,生物の神経系において進化的に保存されている「モジュール性」と呼ばれる配線構造に着目した.おおよそ25個の神経細胞が密に相互結合したユニットが4つあり,それらが細線で結ばれた構造を作製した.細線上には複数本の神経突起が往来し,ユニット間を機能的に結び付けるが,細線部に入る神経突起の数は限られているため,ユニット内部の相互接続に比べて,ユニット間の接続は弱い.細線の本数を変化させることでモジュール性の強さを外因的に制御し,それらの自発活動パターンを比較解析したところ,ユニット間の接続が非常に疎で,モジュール性が高いネットワークにおいては,同期状態と非同期状態が入り交じった複雑な自発発火パターンが現れることを見出した.このほか,来年度以降に実施する刺激応答の解析に向けて,ダイナミックパッチクランプシステム法を用いた微小神経回路の機能解析にも成功し,またパターン光照明システムの立ち上げも進めることができた.
2: おおむね順調に進展している
初年度における検討項目であったモジュール構造型培養神経回路の作製と自発発火パターンの解析を進めることができ,並行して次年度に向けて刺激応答の解析システムの構築も進めることができた.
モジュール構造型培養神経回路の刺激応答パターンの解析が中心的課題となる.また本年度の研究を進める中で,計画書作成時には想定していなかった新たな発見もあったため,自発活動パターンの解析(実験)と数理モデリングも引き続き進めることとする.
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 15件、 招待講演 3件) 備考 (3件)
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