研究課題
本研究では,神経回路網を多細胞システムとして捉え,その情報処理をボトムアップに解析する実細胞実験系を構築することを目指している.2年目の平成31年度は,培養神経回路の摂動解析系として,光応答性カチオンチャネルと蛍光カルシウムプローブを組み合わせた光インターフェースを構築した.主要な要素技術は(1)光応答性イオンチャネルの遺伝子導入と,(2)パターン光照明装置の光学系構築である.要素技術(1)では,アデノ随伴ウイルスを用いて赤色励起型チャネルロドプシンChrimsonRを神経細胞に遺伝子導入する実験条件を検討した.要素技術(2)では高輝度赤色LED光をディジタルミラーデバイスでパターン化して,細胞培養用チャンバー付き倒立型蛍光顕微鏡に導入した.また観察下に置かれた培養神経回路の中から刺激対象となる細胞をGUI上で任意に選択し,それらに対する刺激照明パターンを自動生成するコードをMATLABベースで開発した.以上の実験を進めたことによって,培養神経回路中の約10個程度の神経細胞に対して400ミリ秒の時間分解能で刺激することが可能になった.また昨年度までの研究により,培養神経回路をモジュール構造型にパターニングすることにより培養系において観察される非生理的な同期バースト発火が抑制できることが分かっていたが,今年度はさらに,脳に近い弾性率(0.5 kPa程度)のシリコーン樹脂上でラット大脳皮質神経細胞を培養すると,弾性率が約10^8倍高いガラス上で培養した場合に比べて,生体神経回路に比べて強くなっている興奮性シナプス結合が弱まり,同期バースト発火も抑制されることが分かった.この研究で用いた超軟シリコーン樹脂はまた,力学的柔軟性と電気的絶縁性を併せ持つユニークな材料であるため,これをパッシベーション層とする3次元電極MEAを提案した.
2: おおむね順調に進展している
蛍光顕微鏡の光学系を拡張し,さらにアデノ随伴ウイルスを使った神経細胞への遺伝子導入実験を立ち上げることにより,課題2年目における検討項目であった培養神経回路の摂動解析系を構築することができた.
マイクロ加工基板上でパターン培養した培養神経回路に対して時空間パターン刺激を印加し,ネットワーク構造依存的な入力応答の解析を進めることが次の課題である.
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