研究実績の概要 |
2018年に、血液などから取得された生殖系細胞ゲノムのシークエンスデータ、特に全ゲノムシークエンスデータからHLA遺伝子class I及びclass II(A,B,C,DPA1,DPB1,DQA1,DQB1,DRB1)の型を決定するアルゴリズムALPHLARDを開発した。2019年度においては、がんに焦点を当て、がん細胞から取得したシークエンスデータと生殖系細胞ゲノムのシークエンスデータを合わせて HLA遺伝子に生じた後天的ゲノム変異を高精度に同定する手法の開発を行った。生殖系細胞のゲノムシークエンスはがん細胞からのゲノムシークエンスよりも深度は浅めで読まれることが多い。すなわちがん細胞からのシークエンスデータの方がHLA遺伝子型の決定には有利である。しかしながら、がん細胞におけるHLA遺伝子には変異が入っている可能性がある。そこで両方のデータを同時に使用して2つの解析を同時に実行し、2つの解析の精度を相乗効果によって高める新たなデータ解析技術であるALPHLARD-NT を開発した。その結果、上記class Iおよびclass IIの遺伝子において、1st fieldで100%,2nd fieldで99.2%,3rd fieldで98.5%と世界最高精度を示すことが出来た。また、ALPHARDを用いて国際がんゲノムコンソーシアムのPanCancer Analysis of Whole Genomes(PCAWG)プロジェクトにおいて約2,800のがんサンプルのHLA遺伝子型を解析した。この結果は、PCAWGプロジェクトの成果の一部としてNature,Feb6;578(7793):82-93(2020)において発表された。 HLA遺伝子型が決定できると、がんゲノムの体細胞変異によって生じる変異型ペプチドが免疫細胞に抗原提示されるか否かが予測できる。この抗原提示のメカニズムは、免疫細胞によるがん細胞の排除システムに繋がり、がん細胞の免疫監視システムにおいて重要な位置を占める。2019年度においては、このHLA分子と変異型ペプチドの結合予測を行うソフトウェアNeoantimonを改良し、GitHubにおいて公開した。この情報技術面については、現在論文を投稿中である。
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