人工遺伝子回路を活用した合成生物学の発展は、広範な細胞機能の再構成を可能にしてきた。しかし、哺乳動物細胞における細胞間の動的コミュニケーションを人工的に構築した例はほとんど報告されていない。そこで本研究では、synNotchシステムを起点とした新規人工シグナル伝達経路を作製し、光遺伝学技術によって動的コミュニケーション能力を検証することを試みた。その結果、オリジナルのsynNotchシステムでは動的情報伝達が限定的で、送信細胞内における振動的情報を伝達する効率が低いことが分かった。そこで、リガンド・受容体を遺伝子改変したところ、改変したsynNotchシステムを使用することで送信細胞における振動的な転写活性を隣接細胞間で伝達可能であることが明らかになった。さらに、リガンド・受容体の改変体を検討した結果、隣接細胞間の速度が大きく異なる組み合わせを見出した。以上の結果から得られた新しい人工シグナル伝達経路の有用性および応用可能性を検証するため、遺伝子発現パターンが同期的に振動している細胞集団の細胞間コミュニケーション経路をゲノム編集によって破壊し、その代替として人工シグナル伝達経路を遺伝子導入・置換することで細胞集団の同期的な振動を回復させることを試みた。その結果、細胞間コミュニケーションを機能欠失した細胞集団と比べて、同期モードの顕著な回復が観察された。現在、同期モードの回復度を通信速度の異なる経路同士において比較・検証しているところである。
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