研究課題/領域番号 |
18H03333
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中根 和昭 大阪大学, 医学系研究科, 招へい教授 (10298804)
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研究分担者 |
山本 浩文 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (30322184)
堤 康嘉 大島商船高等専門学校, その他部局等, 教授 (30450141)
横山 雄起 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (60615714)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ホモロジー / 画像診断 / クロマチンパターン |
研究実績の概要 |
肺癌の治療方針などを定める際には、細胞診断は必須の検査である。この診断は、量が多いうえに、判断の基準となる「クロマチンパターン」の形態が非常に複雑であるため、診断を行う細胞検査士には長期間の訓練が必要である。このため、AIなどによる自動診断支援技術の開発は喫緊の課題となっている。しかし、細胞核内 に存在するクロマチンは3次元的にランダムに分布しており、現在のCNNをベースとする手法では実用化は非常に難しい。今回我々は、AIの手法とは異なるアプローチである「ホモロジー・プロファイル法」を新たに開発し、実験を行った。 ホモロジーとは図形の接触の程度を定量化する数学的な概念であるが、これと光学的な工夫を組み合わせることにより、細胞核内に三次元的に分布するクロマチンの状態を定量評価することが可能となった。この評価法を用いて診断結果との整合性を確認したところ、非常に高精度な結果が得られた。今後は実用的なシステムの完成を目標に、本手法の正当性を確認するために処理を行う検体数を増やすとともに、自動撮影装置との組み合わせ・非対象物(コンタミ部分等)の自動的な除去システムの作成・細胞核部分の個別の自動切り離しシステムの作成について検討を始めている。さらに将来の医療的な認可を取得するための準備・調査を始めている。今後、これらのシステムが完成した場合、他の医療施設のサンプルに対して同様の試験を行い、自動診断支援システムの完成を最終的には目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クロマチンとは細胞核内に分布する染色体の事である。これの分布の仕方により、腺癌・扁平上皮癌・小細胞癌などの分類が行われる。これらの分類は、医師の直感により判断される場合が多く、数理的に客観的な指標により判断されてきたわけではない。しかし、診断の結果は尊重されて、実際の治療方針の策定に使われて効果も確認されている。この直感的な診断のクライテリアを数理アルゴリズムに表現できれば、自動診断支援技術のきっかけになると考えられる。 これに対して、画像の二値化パラメータの変化とホモロジーの変化を結び付けることで、クロマチンパターンの分類に成功した。現在のところは200個程度の細胞核に適応ただけであるが、非常に高精度(9割程度)の分類が可能となっている。むろん、処理数も少なく、完全に診断できるシステムではないため、最終的には 医師の判断が必要となるものの、これまで診断にかかる医師の労度を削減できる可能性が出てきた。このシステムは、非常に軽いため、クラウド上に実装することができるため、ネットワークを通じて世界中の医療施設が利用できるため、発展登場国などの訓練 された医師の不足する地域にもサービスを行う事が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
本手法はクロマチンパターンの定量評価を行うことで、細胞核の画像と他の医療情報とのリンクを行っている。各種の情報のリンクは各分野でも行われている研究ではあるが、画像に関しては今のところCNNに基づくものがほとんどである。CNNではいくら多くの特徴量を選定しても、その中に現象の本質を示すものが含まれていない限り、データセットを変えれば結果が異なることは当然であり、他の情報とのリンクは難しい。 臨床現場に有用なシステムを完成させるためには「現象の本質を表現する量」によりリンクを行う必要があり、今回は「クロマチンの 接触(増量)」と「癌の種類」がリンクできたため、このような結果が導出されたと考えられる。 この考え方は、肺癌に限らず各種の癌に対しての応用が考えられる。現在のところは白血病の白血球の変化や、膵癌細胞の変化の定量化が候補として上がってい る。これらのテーマに関して医学研究者と積極的な情報交換を行い、それぞれの病状にあったシステムを構築していくつもりである。 さらに、この考え方は癌にとどまらず、多くのタイプの組織画像に対して適用できるため、その適用例を増やすとともに、理論的な考察も深めていきたい。
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