研究課題/領域番号 |
18H03339
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山崎 俊彦 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 准教授 (70376599)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マルチメディア / SNS / 情報発信 / 魅力工学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、今や必要不可欠な存在となったSNSについて、誰がどんなタイミングでどのようなタグや文章と共にどんな画像・映像コンテンツを投稿すると、情報の受け取り手にどのような情動・行動をもたらしたり情報拡散・共有を引き起こしたりするのかを明らかにし、その知見を活かして狙った情動・行動・情報共有を引き起こさせることのできる技術の研究開発を行うことである。2019年度は下記の研究を行った。 刺さるSNS配信に向けたハッシュタグ推薦:より多くの人気を獲得することのできる我々の独自ハッシュタグ推薦技術FP-Rankをさらに拡張したUFP-Rankアルゴリズムについて、詳細な実証実験を行い、成果を難関国際会議ACM Multimediaで発表を行った。また、一般公開向けのデモシステムの構築を行うと共に、企業へのライセンスを通して社会実装を行った。 刺さる情報発信に向けた画像処理:より好印象な画像に変換する技術や、画像を高速かつ適切に非線形リサイズする技術を強化学習などにより実現した。さらに、オンライン広告を対象にマルチモーダルの情報を効果的に組み合わせる手法を確立し、静止画・動画共に高い精度で広告効果を予測することに成功した。これらの技術は難関国際会議での発表やいくつかの受賞を果たしている。 情報発信者と発信内容・タイミングのマッチング:SNSやオンラインサービス上でのマッチング予測を深層学習にて実現した。特にFactorization Machineの拡張アルゴリズムを提案し、従来に比べて大幅な精度向上を実現した。 どれもユニークな試みとして多くの受賞やマスコミの取材、国際会議等での招待講演依頼を受けている。また、対外発表なども難関国際会議を中心に順調に行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで、非常に多くの項目について成果が出ており、研究計画の内容から大幅に領域を拡大して様々な研究分野に展開している。前述の通り多くの受賞やマスコミの報道、招待講演依頼を受けている。そのハイライトのみをいくつか列挙する。 ソーシャルネットワークにアップロードされた画像や映像などのコンテンツの人気度を予測しさらに人気度を高めるためのタグを推薦するための我々の独自アルゴリズムUFP-Rankを実現し、難関国際会議ACM Multimediaで発表したほか、The WEB conferenceでのデモ展示を行った。我々の従来手法であるFPRankに比べて1.2倍の効果があることを実験的に確認している。マスコミ等で取り上げられたほか、すでに複数の企業にライセンス提供している。 静止画のバナー広告のクリック率予測について、2018年度に研究開発したマルチモーダルな手法を更に拡張・最適化し、クリック率の正解との相関係数を0.55から0.83にまで向上させた。さらに、動画広告のクリック率予測についても取り組んだ。単に静止画広告の手法を拡張すればよいといった単純なものではなく、また我々がこれまで取り組んできたTVCMの効果予測手法でもうまく予測できないことを実験的に確認した。そのうえで、各種最適化や過学習を防ぐ試みを導入することで、相関係数0.7で予測できる手法を確立した。また、現在判定理由の説明・可視化について検討を重ねている。 マッチング・推薦技術については、Factorization Machineを拡張した手法を複数提案し、高い精度を実現した。ACM SIGMMの旗艦会議の1つACM Multimedia Asiaにて発表を行った。また、現在、グラフ深層学習やPositive-Unlabel学習といった最新の手法を取り入れることでさらなる精度の改善を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の取り組みに引き続いて生成、すなわち能動的に関与・介入することで行動変容を引き起こすことができる技術に関する研究に注力していきたい。具体的には、ポスター・スライドなどのデザインをより魅力的に生成していくような強化学習に関する研究、画像・映像に対して人がより魅力的だと感じる説明文やハッシュタグを生成する研究、SNS発信者とフォロワーの世界観マッチングなどを行っていく。 画像・映像等に対する説明文やハッシュタグを生成する技術については、最新の画像キャプション技術の網羅的調査を開始している。また、いくつかの企業と共同研究を通じてデータの共有や実証実験の検討を始めている。非常に挑戦的な課題であるが、実用的な技術が実現できたら学術的・産業的インパクトは大きいと考えている。 SNS発信者とフォロワーの世界観マッチングについては、グラフを用いた分散表現方法について検討していく。SNSは発信者とユーザ、ユーザとユーザの発信する画像やタグはすべて数学的なグラフとして表現可能である。そのようなデータに対し、近年注目を集めているグラフ分散表現手法やグラフ深層学習を適用することにより、適切な特徴量表現手法やマッチング手法について検討していく。 AI技術全般で問題となっている説明可能なAIに関する研究もこのフレームワークの中で行っていく。物体認識など一般的に研究されているものは客観的に誰が見ても確実に判断できるものを対象にするのに対し、我々は主観的な評価を対象としており、より調整的な課題である。 また、上記の研究を行うために、プロジェクト内で積極的にデータセット構築も行っていき、オープンソースでの公開を目指す。また、研究開発した技術を適切に社会還元していけるよう、引き続きデモシステムの構築や実用化を見据えた産学連携・ライセンシングなどを積極的に進めていく予定である。
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備考 |
本研究に関し、多くの招待講演の依頼があり、また報道も数多くなされた。
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