研究課題/領域番号 |
18H03351
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
福井 学 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60305414)
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研究分担者 |
小島 久弥 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (70400009)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メタン / 湿原 / 微生物 / 雪 / 代謝ネットワーク |
研究実績の概要 |
メタンは強力な温室効果ガスであり、その大気中濃度は地球環境に重要な影響を及ぼすと考えられている。その発生源の約2割は湿地(湿原)であると推定されているが、メタン動態機構は未解明な部分が多い。特に、アクセスが困難な多雪地帯については研究が進んでいない。本研究では、アクセスが困難な多雪地帯でのメタン動態機構について未解明な部分が多いため、多雪寒冷地域高層湿原である国立公園尾瀬ケ原湿原をモデルとし、メタン生成とメタン消費の主要な担い手である微生物群集に着目してメタンの時空間的動態を解明することを目的とした。今年度は夏季(無雪期)の中田代において現場調査を行い、湿原泥炭中の環境因子、メタン動態、メタン代謝に関わる微生物の群集構造解析を行った。特に、鹿の影響も考慮して、上田代牛首周辺の5地点で調査を行ったところ、鹿の休息地であるヌタバと非ヌタバでの微生物群集構造は顕著に異なっていた。鹿由来の窒素負荷が考えられたので、窒素代謝関連微生物との関連性についても解析を継続中である。同時に、メタン動態やメタン代謝関連微生物との相互関係についても現在解析中である。さらに、採取した泥炭試料を摂種源として、メタン酸化細菌集積培養系が得られた。メタンモノオキゲナーゼ遺伝子解析の結果、Methylosinus様メタン酸化細菌が検出された。また、Methylomonas様メタノール酸化細菌も検出された。現在、限界希釈法による純粋培養化を試みている。以上の様に、泥炭中の窒素代謝関連微生物とメタン代謝関連微生物との相互作用も考慮しながら、現場代謝ネットワークを解明する必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は無雪期での尾瀬ヶ原の調査が順調に実施することができ、十分な試料が得られた。メタン代謝に関しては、メタン酸化細菌のみならずメタノール細菌の重要性も見出すことができた。さらに微生物代謝ネットワーを解明するためには、現場調査から鹿の影響を考慮こと必要があることが示され、今後の研究において示唆に富む発見であった。
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今後の研究の推進方策 |
尾瀬ヶ原や尾瀬沼のメタン動態を解明するためには、現場環境において優占するメタン酸化細菌の純粋培養を得ることが重要である。現在純粋培養が得られていない原因の大きな一つは、共存する微生物を除去できないことによる。このことは、両者が何らかの協働関係にあるものと推察される。今後、共存菌の機能解析を行いながら、メタン酸化微生物コンソーシアとして扱い、メタゲノム解析を実施することで、現場でのメタン酸化プロセスの解明を進展させる。さらに、現場環境因子、メタン動態のデータと合わせながら、融雪期と無雪期のメタン代謝ネットワークを解明していく。
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