研究実績の概要 |
メタンは強力な温室効果ガスであり、その大気中濃度は地球環境に重要な影響を及ぼすと考えられている。その発生源の約2割は湿地(湿原)であると推定されているが、メタン動態機構は未解明な部分が多い。特に、アクセスが困難な多雪地帯については研究が進んでいない。本研究では、アクセスが困難な多雪地帯でのメタン動態機構について未解明な部分が多いため、多雪寒冷地域高層湿原である国立公園尾瀬ケ原湿原をモデルとし、メタン生成とメタン消費の主要な担い手である微生物群集に着目してメタンの時空間的動態を解明することを目的とした。2020年度はコロナ禍により現場調査を実施することはできなかったが、2021年9月及び10月に尾瀬ヶ原湿原上田代、中田代および下田代において赤褐色に呈する泥炭を採取した。泥炭試料からDNAを抽出し、全原核生物の16S rRNA遺伝子を対象としたアンプリコンシーケンスを行った。その結果、メタン酸化に関与するCrenothrix、鉄還元に関与するAnaeromyxbacterやRhodoferax等が高頻度に検出され、メタン酸化と鉄代謝が関連していることが示唆された。前年度、メタンを単一の炭素源とした条件で集積培養を行ったところ、確立した集積培養系には既知のメタン酸化細菌の他、Methylophilaceae科に属する新規性の高い細菌が含まれていた。得られた集積培養系から、メタノールを資化する新規細菌の単離に成功した(Zm11株)。生理生化学、ゲノム解析等の結果から、Zm11株はMethylophilaceae科に属する新属の細菌であるあることが明らかとなり、新属新種として提唱し、Methyloradius palustrisと命名した。以上のことから,メタンの酸化は鉄代謝とリンクし、メタン酸化代謝産物であるメタノールはメチロトロフによって分解されることが示唆された。
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