研究課題/領域番号 |
18H03352
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴木 光次 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (40283452)
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研究分担者 |
野坂 裕一 東海大学, 生物学部, 助教 (40803408)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 海氷微細藻類 / アイスアルジー / 海氷珪藻 / Fragilariopsis cylindrus / オホーツク海 / サロマ湖 |
研究実績の概要 |
代表的な海氷珪藻種Fragilariopsis cylindrusと海氷微細藻類(アイスアルジー)用培養装置を用いて、複合環境因子が同生物の光合成過程へ及ぼす影響を評価した。F. cylindrus細胞が海氷中で生息していた際には、光合成光化学系IIの光化学反応の量子収率(Fv/Fm)が、光および鉄の利用度にかかわらず、低下した。この結果は、光化学系IIの反応中心が損傷した、もしくは海氷中の高いブライン塩分が光化学系II下流での光合成過程を律速させた可能性が考えられた。一方、この凍結環境において、光合成炭素固定酵素ルビスコの大サブユニットをコードするrbcL遺伝子の発現は上方制御された。海氷が融解し、高い光環境に細胞が曝されると、Fv/Fm値は劇的に減少した。一方、過剰な光エネルギーを細胞から逃散させるための非光化学的消光過程が強化された。興味深いことに、光化学系IIの反応中心D1タンパク質をコードするpsbA遺伝子の発現は高い鉄利用度環境では上方制御されたのに対し、低い鉄利用度環境ではその発現が低下した。これら結果から、高い鉄利用度がD1タンパク質の新規合成を促進させたが、鉄利用度が低下すると、高照度環境により損傷した光化学系IIの回復が阻害されたことが示唆された。2019年2月、海上保安庁巡視船そうやによる冬季オホーツク海航海に参加し、アイスアルジーが付着した海氷を採取することに成功した。この海氷を用いた融解実験を実施し、海氷融解に伴うアイスアルジーの脆弱種を同定するための試料を採取した。さらに、オホーツク海に面する北海道サロマ湖から単離した海氷微細珪藻種Nitzschia cf. neglectaの光合成能力に対する温度効果に関する原著論文をJournal of Phycologyから発表した(Yan et al., 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海氷珪藻種Fragilariopsis cylindrusの光合成特性を評価するすることに成功した。また、オホーツク海から海氷微細藻類(アイスアルジー)が付着した海氷を採取し、その海氷を用いた融解実験を実施することができた。また、北海道サロマ湖から単離した海氷微細珪藻種Nitzschia cf. neglectaの光合成能力に対する温度効果に関する原著論文をJournal of Phycologyから発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年2月の海上保安庁巡視船そうやによる冬季オホーツク海航海で採取したアイスアルジー試料および海水中の植物プランクトン試料の分析を継続し、現場環境(水温、塩分、栄養塩濃度)とこれら微細藻類の現存量、群集組成、多様性との関係を定量的に明らかにする。また、昨平成31年度に実施したオホーツク海氷融解培養実験の試料分析およびデータ解析を継続する。さらに、オホーツク海で採取したアイスアルジーおよび植物プランクトン群集から単離した株を用いて、光合成生理特性を明らかにするための室内実験を実施する。昨年度購入したBio-Logic Science Instruments社の最新の光合成反応解析装置(JTS-100)に設計上の不具合が発覚し、昨年度は同装置を用いた実験が出来なかったことから、本年度は、改良された同装置を用いて、光合成光化学系IIおよび光化学系Iの活性測定法を確立し、上記の室内実験で活用する。また、アイスアルジーの初期光合成生産物である糖類とそれを主材料とした透明細胞外重合体粒子の生産の特徴を明らかにするための室内実験を継続する。
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