研究課題
大気エアロゾルの重要な発生プロセスである新粒子生成(NPF)は、最終的に雲凝結核の濃度を決定付け、地球の気候に影響を与える。しかし、NPFによって生成間もないナノ粒子(直径:数nm~100nm)の化学組成は、その質量の小ささから捕集および化学分析が極めて難しく、十分に理解されていない。そこで本研究では、①ナノサイズの大気エアロゾルを粒径ごとに細かく分級し、かつ高効率で採集できる新たな装置を開発し、②東アジアの様々な地域に起源を持つ空気塊が観測できる能登半島先端を観測フィールドとして、実大気中で起こる新粒子生成(NPF)の観測に応用することを目的としている。平成31年(令和元年)度は、本研究計画が目標としているナノ粒子の高時間分解能測定の実現に大きな進展が得られた。この新しい手法により、直径わずか20nmの個別ナノ粒子からでも、硫酸塩や有機物などの主要な化学成分が超高感度で検出可能になった。これは分光学的な粒子分析の検出限界サイズを従来に比べ1桁近く大幅に更新する画期的な成果であり、その内容は米国エアロゾル学会発行のAerosol Science and Technology誌に発表されている。さらに、能登半島先端の大気観測スーパーサイトにおいて実際の大気中からナノ粒子(直径:20nm~100nm)を分級採集し、分析した結果、重複する粒子径範囲においては従来法(エアロゾルの吸湿特性から間接的に推察される化学組成)との比較検証においても良好な結果が得られている。今後、実大気エアロゾルへの応用を通じて、ナノ粒子生成プロセスの解明、ならびにその気候影響の評価に大きな貢献が期待される。
2: おおむね順調に進展している
新手法によるナノ粒子の分級特性を実験的に評価したところ、一部理論値とは異なる結果が得られており、さらなる検討を要する。一方で、表面増強ラマン分光法の応用に基づくナノ粒子の化学種同定においては当初の予想を大幅に上回る感度が得られた。ナノ粒子の捕集効率の低下は分析の超高感度化によりカバーすることができ、本研究の目標であったナノ粒子の高時間分解能測定を実現することができた。
来年度以降も、引き続き本研究計画で開発したナノ粒子の高時間分解能測定法の改良を行い、NPF発生時も含めた実大気エアロゾルへの応用を図る。その際、観測フィールドである能登大気観測スーパーサイトで集められた各種エアロゾル特性との関連性を評価し、ナノ粒子の生成・成長に関わる大気条件について検討する。
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