研究課題/領域番号 |
18H03356
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 けんし 京都大学, 生存圏研究所, 准教授 (10303596)
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研究分担者 |
常田 岳志 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主任研究員 (20585856)
坂部 綾香 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員 (40757936)
伊藤 雅之 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (70456820)
小杉 緑子 京都大学, 農学研究科, 教授 (90293919)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | メタン / 湿地生態系 / レーザー分光法 / 大気化学 / 植物生態学 / 温室効果気体 |
研究実績の概要 |
本年度は,半導体レーザー吸収分光法によるin-situかつリアルタイム計測が可能なCH4フラックス測定システムを用いて,調査地に自生するハンノキ,および,ハンノキ近傍の土壌表面からのCH4放出量を測定した.ハンノキからのフラックス測定は,プログラム制御した電磁弁を用いることにより,無人での連続的な計測を行った.一方,土壌表面からのフラックス測定はマニュアル操作によって行った.すなわち,現地での調査時に限って測定を行った.また,ハンノキの根圏地下水に溶存しているCH4濃度を計測するため,現地調査の際にマニュアルで地下水試料をバイアル瓶に採取し,実験室へ持ち帰ってガスクロ分析を行った.これらの結果,樹皮からのCH4放出には明瞭な季節性があること,とりわけ夏季に放出量の極大を示すことが分かってきた.また土壌からの放出は,もともと渓畔湿地であるため,大きな放出が予想されたが,少なくとも本研究で選定した場所では,先行研究で報告されているようなオーダーでの放出量に達しなかった.これは,湿地における土壌環境の経時的変化が関係していると考えられるが,こうした観点を明らかにすべく,令和二年度も継続した測定を行う.本年度はまた,樹皮からのガス態放出および溶存態のCH4について,それぞれ安定炭素同位体分析のための試料採取を行った.計画年度の初年度に採取時のコンタミネーションが問題となったので,コンタミネーションを抑制する採取方法を観測サイトで試行錯誤的に精査した.また,植物生態学的な観点から,Granier法による樹液流測定も試みているが,春先にセンサーの一つに不具合が発生してデータの欠損が発生したが,これは大雨による影響があったと推察された.そこで,センサーを修理するとともに,まとまった降雨に耐えられるような雨よけも取り付けて,その後は継続的に安定したデータが取得できるようになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の年次計画どおりに野外観測の定常的な実施を進めている。また、組織観察の予備的な実施も開始した。
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今後の研究の推進方策 |
令和二年度は,前年度にひきつづき,滋賀県大津市の国有林内にある京都大学農学研究科の野外調査地において,渓畔湿地エリアにあるハンノキおよびハンノキ近傍の土壌表面から発生するCH4ガスの放出量を連続測定する.連続測定は,前年度から軌道に乗せた半導体レーザー吸収分光装置を用いて実施する.レーザー分光装置のオンサイト較正を行うため,標準ガス(ワーキングスタンダード)による較正システムを製作する.さらに,前年度から定常測定を開始したGranier法による樹液流測定を引き続き実施することにより,ハンノキからのCH4放出の植物生態学的なメカニズムについて考察を行う.とりわけ,微気象データや根圏の地下水溶存態のメタン濃度の時系列を解析し,数か月程度の季節性から日内変動までの時間スケールで,樹皮および土壌からの放出特性がどのように変動しているのかに注目して,樹液流,微気象,そしてフラックスのデータの統合的な解析を行う.また,前年度は,安定同位体比計測のためのガスの採取方法を現地で検討し,コンタミネーションを最小限に抑えた採取手順を確立できたので,本年度は採取のタイミング,とりわけ,季節性に着目した採取を行い,質量分析法による分析を行う.さらに,樹木サンプルの採取を試み,顕微鏡観察を実施する.これにより,樹木内部の物質輸送プロセスについて,解剖学的なアプローチからの考察を加えることを試みる.
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