研究課題
研究プロジェクトの目的は、「アイスランド南方のガーダードリフトで掘削されたIODP Site U1314コア試料の超高分解能マルチプロキシー分析によって、大陸氷床の成長と崩壊、海洋表層の環境(水温・塩分・海流)変化、および海洋深層の環境(流れの強度)変化の歴史を各々明らかにし、それらのリンケージの検証から、約270万年前以降の北半球の氷床化と氷期ー間氷期サイクルの強化の原因の解明に迫る」ことである。2018年度は、当初の研究計画案通りに(1)サンプリング・ふるいがけ等の前処理作業、(2)大陸氷床の崩壊記録の復元を目的としたIce rafted debrisの同定・計数、(3)北大西洋深層水の強度変動記録の復元を目的とした全岩試料の等温残留磁化付加実験とその成分分離に着手した。これらの分析から、290~240万年前の古気候・古海洋記録を復元することに成功し、MIS G4氷期以降に北大西洋深層水が強化され、それに伴って環北大西洋地域の大陸氷床が大きく成長と崩壊を繰り返していたことが分かった。また、2018年度には、(4)大陸氷床の成長記録の復元を目的とした底生有孔虫化石の酸素同位体分析、(5)上述3の北大西洋深層水の強度変動記録と比較する目的で同様な指標である底生有孔虫化石の炭素同位体分析、(6)海洋表層の水温・塩分記録の復元を目的とした浮遊性有孔虫化石のMg/Ca分析に着手し始めた。さらに、2019年度に開始予定の(7)海流の復元を目的とした微化石群集の同定と、その分析方法の確立を、新たに導入した走査型電子顕微鏡を用いて進めた。これらの研究成果の一部は、学会において積極的に公表した。
2: おおむね順調に進展している
分析試料の前処理作業と各分析には、想定していた通り膨大な時間を要したが、本年度に予定していたほぼ全ての作業を終えることができた。また、次年度以降の分析の予備調査を行った結果、研究目的にアプローチするためには、幾つかの点で研究計画の微修正を行った方がより効果・効率的であることが分かった(次の「今後の研究の推進方策」)。
今後の研究では、北半球の気候が大きく変わった約270万年前の前後の高緯度北大西洋地域における高精度な古気候・古海洋記録の復元を目指して、2018年度に引き続きIce rafted debris分析、全岩試料の等温残留磁化付加実験・成分分離分析、底生有孔虫化石の酸素・炭素同位体分析、浮遊性有孔虫化石のMg/Ca分析を進める。また、2019年度には新たに珪藻化石の群集解析に着手する。当初の計画では、2019~2020年度に全ての微化石の群集解析を行い、海洋表層付近の環境を復元する予定であった。しかし、2018年度にその予備調査を行った結果、多くの海洋環境変化は珪藻化石群集に効率的に記録されていることが分かった。そのため、2019年度以降は、微化石の中でも珪藻化石に的を絞って分析を行うことで、分析の精度や復元する時間分解能の向上を図る。また、2019年度以降には、最終的な研究目的を遂行するために分析区間を見直し、例えば、MIS G6~G4(274~268万年前)やMIS 100~98(250~240万年前)などの古気候の転換期に相当する特に重要な時期については、時間分解能を上げて重点的に分析を行う予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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