研究課題/領域番号 |
18H03358
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
林 辰弥 九州大学, 比較社会文化研究院, 助教 (80571132)
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研究分担者 |
大野 正夫 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (00251413)
桑原 義博 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (90281196)
佐藤 雅彦 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (50723277)
坂井 三郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, 技術研究員 (90359175)
佐川 拓也 金沢大学, 地球社会基盤学系, 助教 (40448395)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 北半球の氷床化 / 大陸氷床 / 古気候・古海洋 / 氷期ー間氷期サイクル / 鮮新世の後半 / 更新世の初期 / 北大西洋深層水 / 大西洋子午面循環 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトでは、アイスランド南方沖のガーダー・ドリフトで掘削された海底堆積物(IODP Site U1314コア)試料の超高解像度マルチプロキシー分析から、大陸氷床の変動(成長と崩壊)や、海洋の表層環境(水温・塩分・海流)と深層環境(特に深層流)の変化の歴史を明らかにし、それらのリンケージを検証することで、約270万年前に起きた北半球の氷床化と氷期ー間氷期サイクルの開始の原因を明らかにすることを目的としている。 2019年度には、2018年度に引き続き、古気候・古海洋記録の復元に注力した。取り組んだ分析は、1.堆積物中のice rafted debrisの同定と計数、および全岩試料のXRD解析(大陸氷床の崩壊の復元)、2.底生有孔虫化石の酸素同位体比分析(大陸氷床量の増減(=氷期ー間氷期サイクル)の復元)、3.全岩試料の等温残留磁化付加実験とその成分分離解析、および底生有孔虫化石の炭素同位体比分析(北大西洋深層水の強度変化の復元)、4.浮遊性有孔虫の群集解析と殻化石のMg/Ca分析(海洋表層の水温・塩分変化の復元)、さらに5.珪藻化石の群集解析(海流の変化の復元)である。また、北大西洋深層水の数十~数百年規模の変動を復元することを目的として、粘土鉱物の超高解像度分析手法を新たに確立した。 これらの分析結果から導かれた新しい結論として、270万年前には、北半球の氷床化と氷期ー間氷期サイクルに加えて大西洋子午面循環も強化されていたことが分かった。おそらく、それらのことが密接に関係して地球規模の気候変動が大きく変化したと推定され、現在、その可能性を検証中である。以上のことは学会や研究集会で議論し、また、成果の一部をまとめた論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、研究の対象年代(290~210万年前)を通して数百年の間隔で各々の分析を行い、北大西洋地域の古気候・古海洋記録を復元する予定であった。しかし、幾つかの分析については、特定の年代(275~240万年前)において当初の想定以上によい精度の結果が得られ、それらは本研究プロジェクトの課題の解決に繋がる核心的なデータであることが判明した。そこで、分析を275~240万年前について重点的に行い、時間分解能と分析精度が向上するように研究計画を微修正した。そのように分析の対象年代を絞りはしたが、研究目的の達成という点から評価すると、研究プロジェクトは概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、古気候・古海洋の復元に関する各々の分析を約275~240万年前について重点的に行い(2020年度前期)、それらの結果を総括して、約270万年前の北半球の氷床化と氷期ー間氷期サイクルの開始の原因の解明に迫る(2020年度後期)。 前期に行う分析は以下の通りである:Ice rafted debris分析と、全岩試料のXRD解析(大陸氷床の崩壊の復元)、全岩試料の等温残留磁化負荷実験・成分分離解析(海洋深層水の復元)、底生有孔虫化石の酸素同位体比分析(大陸氷床量の復元)と炭素同位体比分析(海洋深層水の復元)、浮遊性有孔虫の群集解析と殻化石のMg/Ca分析(海洋表層の水温と塩分の復元)、珪藻化石の群集解析(海洋表層環境の復元)。また、昨年度に確立した粘土鉱物の超高解像度分析を試験的に行い、数百年スケールの海洋深層の環境変化と気候変動との関係についても検討する。 後期には、本プロジェクトの全ての分析結果をまとめ、先行研究の成果と合わせて検討し、約270万年前の北半球の氷床化と氷期ー間氷期サイクルの開始を究明する。
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