研究課題
これまでに開発・改良を行ってきた気象研究所地球システムモデルを用いて、観測が充実する近年(2008-2015年)を対象とした計算を実施した。既存の地上・航空機・衛星・積雪等の観測結果を用いて、モデル計算結果の検証を実施したところ、北極域・東アジア域の地上で観測された大気中ブラックカーボン濃度の季節変化、北極域・東アジア域・太平洋上等で観測された大気中ブラックカーボン濃度の鉛直分布、北極域での積雪中ブラックカーボン(積雪不純物)濃度の広域分布等の再現性が従来よりも大きく向上した。積雪のアルベドは積雪粒径と積雪不純物(光吸収性粒子)濃度に強く依存する。グリーンランド氷床上のこれら積雪物理量の変動実態を把握するため、2000-2018年におけるMODISデータから表層積雪粒径(Rs1)、積雪不純物濃度(Cs)を抽出し、それらの時空間変動を調べた結果、Rs1の経年変化は7-8月に増加トレンドを示したが、2012年に観測期間の最大値を記録した後、2013年、2017-18年に観測初期と同程度の小粒径を記録し、統計的には有意な増加トレンドではなかった。7月のRs1とNorth Atlantic Oscillation (NAO)インデックスとの関係を調べた結果、有意な相関が見られ、Rs1は気温変動に支配されていることが示唆された。一方、Csは僅かな増加トレンドが見られたが、衛星による測定限界付近の濃度のため衛星センサー感度変動などの影響を受けている可能性がある。また、地球システムモデルの計算結果を入力として、積雪変質モデルSMAPを駆動するための予備調査と計算フレームワーク構築のための試行を行うとともに、時空間的に高解像度な極域気候モデルNHM-SMAP v1.0による1980年から現在にかけてのグリーンランド気候計算を実施した。
2: おおむね順調に進展している
気象研究所地球システムモデルおよび積雪変質モデルの検証・高度化を実施した。とくに北極域の多点での地上観測により得られた積雪不純物(ブラックカーボン)濃度について、観測結果とモデル計算結果の比較・検証を実施した。また、北半球で最も大きな氷床であり、近年表面融解が顕著に進んでいるグリーンランド氷床で、衛星観測から近年の積雪アルベド低下に影響を与える積雪粒径の変動実態が明らかになった。積雪のアルベドは積雪不純物濃度と積雪粒径に強く依存するため、観測により得られた新たな知見は、今後のモデルの検証・高度化を行う上で必要不可欠な成果である。また、時空間的に高解像度な極域気候モデルNHM-SMAP v1.0による1980年から現在にかけてのグリーンランド気候計算結果は、地球システムモデルによる気候計算結果のリファレンス情報として活用できるため、今後の地球システムモデルの検証・高度化を行う上で重要な成果である。
気象研究所地球システムモデルによる計算結果と観測結果との比較を引き続き実施する。とくに、衛星によるグリーンランドの氷床上の積雪物理量の抽出を継続して実施することで、モデルで計算される積雪変質過程の検証を実施する。さらに、グリーンランド氷床のアイスコアから求めたブラックカーボン濃度と衛星抽出積雪粒径データから過去20年間におけるブラックカーボンによる放射強制力の時空間分布を求める。また、地球システムモデルの計算結果を積雪変質モデルSMAPに入力し、極域における雪氷物理状態の変化を詳細に計算し、収集した観測データによる検証を実施する。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 10件、 招待講演 2件)
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