研究課題
従来の気候モデルに数多くの改良を実施することで、第6期結合モデル相互比較計画(CMIP6)に向けた新しい気象研究所地球システムモデル(MRI-ESM2)を開発した。CMIP6の枠組みで実施されたMRI-ESM2による様々な計算結果をCMIP6モデル結果が集積されるデータノードに提出した。現在気候におけるMRI-ESM2の再現性を検証するために、近年を対象としたモデル計算結果と観測結果を比較したところ、北極域での大気中ブラックカーボン濃度の季節変化、グリーンランドでの積雪粒径の広域分布、北極域での積雪中ブラックカーボン濃度の広域分布等の再現性が従来よりも向上した。モデルで使用する雪氷面アルベド物理過程の検証のため、札幌における2007-2017年の気象・積雪観測データをもとに、積雪アルベド物理モデルを用いて、積雪不純物(ブラックカーボン、ダスト)によるアルベド低下が熱収支及び融雪に与える数値実験を行った。その結果、積雪不純物によるアルベド変化は-0.053、放射強制力は+6.7 Wm-2であった。また、融雪量への寄与は融雪量全体の28%を占め、そのうちブラックカーボンによる寄与がダストよりも3倍大きいことが明らかになった。また、地球システムモデルによる気候計算のリファレンス情報とすべく、時空間的に高解像度な極域気候モデルNHM-SMAP v1.0によるグリーンランド域を対象とする1980年から現在にかけての気候計算結果を、国際的なグリーンランド氷床表面質量収支計算モデル相互比較プロジェクト(GrSMBMIP)に提出した。グリーンランド氷床における雲放射効果の定性的・定量的影響をNHM-SMAP v1.0を用いて調べた結果、雲量が増加するほど雪氷表面融解面積は拡大するものの、雪氷質量損失は雲量の減少によって加速されることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
気象研究所地球システムモデルの開発および積雪変質モデル・積雪アルベド物理モデルの検証・高度化を実施した。とくに北極域での観測により得られた積雪不純物(ブラックカーボン)濃度や積雪粒径について、観測結果とモデル計算結果の比較・検証を実施し、モデルの再現性を確認した。また、積雪不純物がアルベド低下を通して融雪に与える効果を、10年という比較的長期間の観測データとモデルの感度実験から明らかにした。さらに、札幌のような中緯度の都市域では、ブラックカーボンの効果がダストよりも大きいことが確認された。また、時空間的に高解像度な極域気候モデルによるグリーンランド気候計算が完了し、計算結果は地球システムモデルによる気候計算結果のリファレンス情報として活用できるため、今後の地球システムモデルの検証・高度化を行う上で重要な成果である。
気象研究所地球システムモデルを用いて、産業革命前から現在までの長期計算を実施する。また、産業革命前に対する現在におけるブラックカーボン等の有効放射強制力を全球規模と北極域において評価する。グリーンランドにおける現地観測データと積雪アルベド物理モデルを用いて、積雪不純物が融雪に与える効果を調べ、地球システムモデルによる見積もりを検証する。また、衛星データから積雪粒径や雪氷微生物の経年変化とアルベドに与える効果を見積もる。地球システムモデルの歴史実験計算から抽出されるブラックカーボンとダストの氷床表面への沈着量計算結果をNHM-SMAP v1.0を構成するオフラインSMAPコンポーネントに入力して、近年のグリーンランド氷床表面質量収支変動に対するブラックカーボンの定量的寄与を評価する。収集した観測データによる検証も同時並行で実施する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 4件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 8件、 招待講演 2件)
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