研究課題/領域番号 |
18H03368
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
渡邉 英嗣 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 北極環境変動総合研究センター, 研究員 (50722550)
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研究分担者 |
伊東 素代 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 北極環境変動総合研究センター, 技術研究員 (60373453)
小野寺 丈尚太郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 主任研究員 (50467859)
田中 裕一郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究部門長 (50357456)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アイスアルジー / 海氷減少 / セディメントトラップ / 生態系モデリング |
研究実績の概要 |
海氷底面(海水との境界面)に生息する植物種(アイスアルジー)に着目し,北極海における生息分布や基礎生産量の季節~数十年スケール変動および炭素循環における役割を明らかにする.アイスアルジーは動物プランクトンや底生生物の餌になることから,高次捕食者(端脚類やカイアシ類など)の生活史にとっても重要である.また夏季の海氷融解後には凝集したアイスアルジー由来の有機物粒子が海水中を高速で沈降することから,大気中の二酸化炭素を海洋中深層に隔離する働きも無視できない.このようにアイスアルジーは海氷域における海洋生態系や物質循環の観点からも鍵となる植物種である.一方,海氷底面に生息しているという特徴から,人工衛星や船舶による観測が困難で不確定性が大きいのが課題である.そこで本研究では,北極海全域を対象とした数値モデリングと生物由来粒子を通年で捉えるセディメントトラップ係留系観測を融合させることで,海氷減少に直面するアイスアルジーの動態解明を目指している.本課題の1年目である2018年度は,様々な測器で構成された多項目係留系を太平洋側北極海に位置するノースウィンド深海平原(Station NAP18t)に設置し,複数年に渡る時系列観測を開始した.また北極海研究の国際的な枠組みであるFAMOS (Forum for Arctic Modeling and Observational Synthesis) プロジェクトの下で,世界各国で開発されている海氷海洋生態系モデルから得られた年々変動実験結果を相互比較することで,主にアイスアルジーによる基礎生産量の不確定性を見積もった.今後は2019年秋から実施される北極海縦断観測プロジェクトとも連携しながら,急激に進行している海氷減少がアイスアルジーやそれを介した海洋物質循環に及ぼすインパクトを定量的に評価していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海氷厚,海氷・海洋流速,クロロフィル(葉緑素)濃度,全粒子沈降量,窒素・炭素含有量,珪藻殻群集の通年観測を行うために,超音波氷厚計IPS (Ice Profiling Sonar),超音波多層流向流速計ADCP (Acoustic Doppler Current Profiler),クロロフィルセンサー,セディメントトラップ一式で構成される海底設置型の多項目係留系をノースウィンド深海平原(Station NAP18t)に設置した.観測地点は海洋研究開発機構が2013-2014年に設置したStation NAP13tとほぼ同じで,一連の作業は韓国極地研究所が運用する砕氷船「アラオン」に乗船して行った.また周辺海域で過去に取得されたセディメントトラップ試料の分析も進めた.これと並行して,北極海全域を対象とした海氷海洋物理モデルCCSR Ocean Component Model (COCO) version 4.9に低次海氷海洋生態系モデルArctic and North Pacific Ecosystem Model for Understanding Regional Oceanography (Arctic NEMURO) を結合させて,水平25km格子の中解像度版で1979年から2013年までの長期変動実験を行った.得られた結果をFAMOSプロジェクトに参加しているアラスカ大学・ビクトリア大学・ワシントン大学のモデル出力と相互比較することで,アイスアルジーに関連する環境変数の共通点・相違点を検証した.北極海の海氷減少に対するアイスアルジーの応答は海域差が大きいことを考慮して,緯度・経度や水深で定義したサブ領域(チャクチ海,カナダ海盆,ユーラシア海盆,バレンツ海)ごとに基礎生産量の年間積算値およびブルームの時期や規模の時系列を作成し,長期的なトレンドやその要因を解析した.
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今後の研究の推進方策 |
現在ノースウィンド深海平原(Station NAP18t)に設置している多項目係留系を回収するとともに,同様の仕様で構成された係留系を同じ地点に設置し,2年目の時系列観測を開始する.一連の作業は海洋研究開発機構(JAMSTEC)と米国大気海洋庁(NOAA)の間で締結している国際共同研究の枠組みの下で,米国沿岸警備隊が運用する砕氷船「ヒ―リー」に乗船して行う.乗船期間は2019年8月2日から8月23日で,乗下船地はアラスカ州ノームの予定である.回収した係留系を日本に再輸入した後,順次データの解析に着手する.海氷厚は透過光や海氷海洋間の物質交換,流速は水平輸送の評価に利用する.また周辺海域で過去に取得されたセディメントトラップ試料のうち,珪藻殻の群集解析も進めることで,アイスアルジーの優占度を算出する.海氷海洋生態系モデリングに関しては,まずFAMOSモデル間比較によって得られた知見を国際誌にて公表する.また水平5km格子の高解像度版で2001年から直近までの年々変動実験を行い,上記の多項目係留系観測で得られる結果を海氷・海洋物理環境と生物地球化学の双方から解釈していく.アイスアルジーに関連したモデル内の定式化やパラメータ値は水平25km格子の中解像度版でこれまでに実行してきた多くの感度実験結果を参考にしながら随時見直す.
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