研究課題/領域番号 |
18H03370
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
長島 佳菜 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), 技術研究員 (90426289)
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研究分担者 |
勝田 長貴 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (70377985)
長谷川 精 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 講師 (80551605)
岩崎 晋弥 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 特別研究員(PD) (70751006)
村山 雅史 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 教授 (50261350)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 偏西風 / 地球温暖化 / 黄砂 / 堆積物 |
研究実績の概要 |
本研究では,地球温暖化が偏西風経路に及ぼす影響を検証するため、南北両半球の堆積物試料(福井県水月湖・北海道大沼の湖底堆積物,南米チリ沖の海底堆積物)を用いて、東アジアおよび南米チリ上空の過去数百年間にわたる偏西風経路を年レベルの分解能で復元することを目的とする。東アジアでは、偏西風が運ぶ黄砂の量や供給源の情報を堆積物から得ることで、一方チリ沖では、偏西風経路下で増加する降雨の指標となる砕屑物の量や供給源の情報を堆積物から得ることで、それぞれ偏西風経路の復元を行う。 本年度は、東アジア上空の偏西風経路の復元に向け、2012年に大沼で採取されたON12Cコアの年代モデルの検討を行った。更に大沼に含まれる砕屑物粒子の粒度分析やXRD分析による鉱物組成測定および長石の種類の同定を行った。その結果、特に過去100年余りの大沼堆積物は大沼周辺域から供給された砕屑土壌が卓越し、黄砂の含有量が少ない可能性が示された。黄砂と流入土壌とを分離するため、7月30日~8月1日において大沼への流入河川の川岸および大沼湖底の土壌を採取して、XRD分析等を行い、大沼へ流入する土壌の特性を明らかにした。 一方、チリ上空の偏西風経路の復元に向け、南米チリ沖の海底堆積物(MR16-09 PC01, PC02)の年代モデル構築を行った。更に、これらの堆積物を用いて、μXRFコアスキャナー(Itrax)による元素組成分析を行った。Itraxを用いた分析では、定量的な元素組成情報を得るために、含水率の影響を補正する必要がある。そこで厚さ1cmのLL-channelを用いて試料を採取し、Itrax分析を用いた。今後、幾つかの層準について従来の定量的な元素組成分析(XRF分析)や含水率測定を行い、Itraxから得た情報と比較して検量線を作成し、Itraxの分析結果を基に定量的・高解像度な元素組成情報を得る予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東アジアと南米上空の偏西風経路を年レベルの分解能で復元するには、精度の高い年代モデルの構築と、黄砂や砕屑物の量・供給源の推定を行う必要がある。今年度は、当初計画していた大沼やチリ沖堆積物コアの年代モデル構築に加え、大沼、水月湖、チリ沖コアの粒度分析、鉱物組成分析、カソードルミネッセンス分析、μXRFコアスキャナー分析等による砕屑物の特徴づけを行った。その結果、水月湖・大沼共に堆積物中の砕屑物に占める黄砂の割合が低いため、黄砂の抽出や供給源の推定には、黄砂を多く含む粒径を抽出した分析の必要性が判明した。またチリ沖の堆積物は、炭素放射性年代が入っている層準が少なく、本研究の目的とする高時間解像度分析には不十分であることがわかり、次年度以降に多くの層準での炭素放射性年代測定を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
堆積物から年単位の情報を得るには、時間解像度の高い分析を行うと共に、精度の良い年代モデルを構築する必要がある。本研究で用いている水月湖・大沼・チリ沖の堆積物のうち、チリ沖の堆積物コアについては十分な精度を持つ年代モデルが構築できていない。そこで、今後はまずチリ沖の堆積物コア(堆積速度が速く最も高時間解像度のデータが得られるPC01, PL01)の10-20層準について追加の炭素放射性年代測定を行う。また、採取時における堆積物コア上部の損失が少ないPL01について0.5cm間隔で鉛年代測定を行い、これらの結果を合わせて年代モデルを構築する。一方、XRF分析を行ってチリ沖堆積物のI-trax分析結果の定量化を試みると共に、全ての堆積物について様々な物性・化学組成分析(粒度分析、鉱物組成分析、石英のカソードルミネッセンススペクトル分析、ICP-MS分析等)を高時間解像度で行う。これら複数の分析結果を合わせて解析し、年単位で過去数百年に渡る砕屑物の量や供給源推定を行うことで、東アジア上空と南米チリ上空における偏西風経路の変遷を明らかにする。さらに、南北両半球の偏西風の復元結果を基に、温暖化とそれ以外の要因(例えばNAO,ENSO,太陽活動等)が偏西風経路に与える影響を区別し、温暖化に伴う偏西風経路変動の実態解明を目指す。
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