放射線や環境変異原によって引き起こされる重要な生物影響の一つは変異の誘発であり、 その分子機構の解明は当該研究分野の重要課題である。誘発変異の主要な原因となる損傷トレランス機構は、損傷のあるゲノムDNAの複製を、損傷を除去することなく完了する分子機構であり、 二つのサブ経路「忠実度の低い損傷乗り越えDNAポリメラーゼを介したTranslesion DNA synthesis(TLS)」と 「忠実度の高いDNAポリメラーゼ を介したTemplate switch (TS)」が存在し、DNA複製の補助因子であるPCNAのユビキチン化によって制御される。損傷部位でのTLSまたはTSへの 振り分けは、変異誘発リスクに直結し、遺伝的安定性の維持に極めて重要である。本研究では、ユビキチン化PCNAを標的とする様々な因子の機能解析を通してTLSとTSの振り分けメカニズムを明らかにすることで、変異誘発のリスクを最適化する分子機構の解明を目指している。 本研究は、次の三つの課題、1) ポリユビキチン化PCNAと相互作用する新規なTS制御因子の解析、 2) ポリユビキチン化PCNAの脱ユビキチン酵素の同定と機能解析、3) PCNAのポリユビキチン化の時空間的制御機構の解析、に焦点をしぼり研究を推進している。 本年度はそれぞれの課題について次の通り研究を行った。 1) これまでの研究から、ポリユビキチン化PCNAと相互作用する新規制御因子、ポリユビキチン化PCNA相互作用因子(polyubiqui tinated PCNA interacting factor; PPIF)を 同定している(未発表)。本年度は、PPIFの機能を破壊した培養細胞株を樹立した。 2) HeLa細胞の抽出液中に見出されたポリユビキチン化PCNAの脱ユビキチン酵素、USP7の特徴を明らかにした。 3) PCNAのポリユビキチン化の時空間的制御機構について明らかにした。
|