研究課題/領域番号 |
18H03378
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
塩谷 文章 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 主任研究員 (10627665)
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研究分担者 |
足立 淳 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 創薬デザイン研究センター, プロジェクトリーダー (20437255)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DNA複製ストレス / 癌遺伝子 / ゲノム不安定性 / ATR |
研究実績の概要 |
がんドライバー遺伝子の活性化(KRAS等)は、DNA複製ストレスを誘発し、がんに共通するゲノム不安定性を誘発する。これまで、DNA複製ストレス応答を制御するATRキナーゼは発がんを抑制し、ATR機能不全はゲノム不安定性を介し発がんを促進すると考えられてきた。しかしがん細胞においてATR機能不全は極めて稀であり、むしろATR機能阻害は細胞死を誘導し発がん抑制することから、正常細胞(無病)から未病さらにはがん細胞(発病)に遷移する過程におけるATRによるDNA複製ストレス寛容機構が注目を集めている。本年度は、K-rasG12Vを肺正常上皮細胞に導入する肺腺がんモデルにおいて、ATR高発現がKrasG12Vによって誘発される発がんを促進する結果を得た。そこでK-rasG12V誘発性DNA複製ストレス抵抗性に関連するATRリン酸化基質を網羅的に解析したところ、同定された15,000部位を超えるリン酸化サイト中には、ATR阻害剤によって低下または上昇する既知のDNA損傷応答因子を認め、これらの中にはクロマチンを構成するヒストンなどが含まれていた。また、KrasG12V発現とATR kinase活性に影響を受けるリン酸化タンパク質としてクロマチンリモデリング複合体因子のリン酸化サイトを認めた。これらのことからDNA複製時のクロマチン状態がATR kinase活性によって制御されており、コントロール細胞におけるKrasG12Vによって誘発されるDNA複製進行の遅滞、およびATR高発現による遅滞の回復現象にクロマチン状態が関連することが示唆された。現在これらリン酸化サイトのバリデーション系を立ち上げ、検証作業中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に予定していたDNA複製ストレス解析およびDNA複製ストレス要因の解析は順調に進み、DNA複製ストレス原因に応答する機構の解析を進めており、当初の予定通り研究を遂行しうる。
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今後の研究の推進方策 |
R1年度に同定したK-rasG12V誘発性DNA複製ストレス抵抗性に関連するATRリン酸化基質について検証する。全細胞抽出液を用いた昨年度の解析を参考に、クロマチンリモデリング因子などを中心に、質量分析による再検証、in vitro kinase assayによる直接的なリン酸化検証試験、さらにリン酸化サイトを破壊した基質を細胞に導入して機能解析をおこなう。DNA複製ストレス抵抗性に対して重要な機能を認める場合には、ゲノム編集技術によりリン酸化サイト変異細胞を作成して、KrasG12Vによって誘発されるDNA複製進行の遅滞、およびATR高発現による遅滞の回復現象に及ぼす影響を検討する。
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