本年度は、これまでに本研究で同定した5種(Thy-1BP、Surf-2、MEF-1、RAR/DR-5、USF-1)のカドミウム感受性候補転写因子のうち、未検討のThy-1BP、Surf-2、USF-1について、カドミウムの感受性に及ぼす影響をヒト由来腎近位尿細管細胞(HK-2細胞)を用いて検討した。なお、細胞生存率をAlamar blueアッセイ、mRNAレベルをリアルタイムRT-PCR法により解析した。 その結果、THY1とUSF-1を各々siRNA法によりノックダウンしたHK-2細胞は、いずれもカドミウム毒性に影響を与えなかった。しかしながら、Surf-2をsiRNA法によりノックダウンしたHK-2細胞はカドミウム毒性に対して僅かに抵抗性を示した。次に、THY1、Surf-2およびUSF-1の遺伝子発現に及ぼすカドミウムの影響を調べたところ、THY1およびSurf-2 mRNAレベルはカドミウムによって変動しなかったが、USF-1 mRNAレベルはカドミウムによって減少した。 我々は、これまでに転写因子PPARδの転写活性がカドミウムによって阻害されることを見いだしている。そこで、PPARδについても、カドミウムの感受性に及ぼす影響を検討した。その結果、PPARD(PPARδの遺伝子名)をsiRNA法によりノックダウンしたHK-2細胞はカドミウム毒性に対して強い抵抗性を示した。なお、PPARDの遺伝子発現はカドミウムによって変動しなかった。 以上の結果より、THY1およびUSF-1はカドミウム毒性に関与しなかったが、PPARδはカドミウム高感受性因子であることが明らかとなった。なお、Surf-2は、僅かにカドミウム高感受性を示した。また、カドミウムはUSF-1遺伝子発現抑制作用を有することが示された。
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