研究課題/領域番号 |
18H03383
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
田副 博文 弘前大学, 被ばく医療総合研究所, 助教 (60447381)
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研究分担者 |
三浦 富智 弘前大学, 保健学研究科, 准教授 (20261456)
白井 厚太朗 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (70463908)
永井 尚生 日本大学, 文理学部, 教授 (10155905)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 化学形態 / Sr-90 / I-129 / 河川 |
研究実績の概要 |
請戸川で採取した淡水性二枚貝の貝殻の成長輪に保存された放射性核種の分析から原発事故直後の濃度変動や存在状態を明らかにするため、難分析放射性核種ストロンチウム-90の分析法開発および微量元素の分析を実施した。分析対象として、平成28年に浪江町請戸川にて採取したカワシンジュガイおよび河川水試料の放射性核種および元素分析を実施した。貝殻中に保持された放射性ストロンチウムは2011年以降も極めて低濃度ながらも検出されている。さらに夏季に放射性ストロンチウム濃度が低く、冬季に高いという季節変動があることが確認された。放射性セシウムは濃度が低いため通常の実験環境下では検出下限値以下であり、定量には地下実験施設などの低バックグランドγ線測定施設での測定が必要である。一方で貝殻内面の有機物層に高濃度に濃縮されている可能性を示唆する結果が得られており、河川水中での有機物との親和性や藻類による濃縮過程に着目して分析を継続している。こうした部位ごとの分析は安定セシウムをICP質量分析計で分析することで定量的な評価が可能である。また、付着藻類の濃縮係数が約3000と極めて高いとの結果も得られており、セシウムを多く含む有機物源となっている可能性が示唆された。河川生態系の食物連鎖を通じて重要な役割を果たしていると考えられる。特にカワシンジュ貝のように水中の有機物を水管から取り入れるろ過食者にとっての汚染経路を考えるためには水中での存在形態を理解することが重要となる。2018年度末に計画していた野外調査が天候や河川の状況から実施することができなかったが、2019年度には複数回の調査を行い、季節変動を含めた考察を加える予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分析が困難なストロンチウム-90を3か月単位の時間分解能で分析することには成功しており、順調な経過といえる。水中のセシウムがストロンチウムと同じ溶存画分だけでなく酸可溶粒子態画分にも10-50%程度の割合で存在していることが分かってきた。当初予定していなかった分析であるが、水中の酸可溶態粒子画分の放射性セシウム・安定同位体の定量に2018年度および2019年度に時間を割くため当初計画より変更が生じている。また、大型の質量分析計の不調による測定スケジュールの遅延や2018年度末に計画していた野外調査が天候不良により実施できなかったため、一部では若干の遅延を生じている。
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今後の研究の推進方策 |
二枚貝についてはさらに精密な時系列変動と蓄積機構を明らかにするため、放射性セシウム・ストロンチウム・ヨウ素の分析を研究分担者と共に実施する。2018年度に季節ごとに切削を放射性ストロンチウム分析を行った貝殻試料のうち、対となる貝殻試料は保存されている。これをさらに細分化して切削し、高時間分解能の分析に用いる。切削した試料からまず放射性セシウムの分析を実施する。組成分析および微量元素分析を行った後、放射性ヨウ素の抽出を行い加速器質量分析装置により分析する。最後に放射性ストロンチウム分析を実施し、各パラメータの解析に用いる。 2018年度の結果より河川水環境での食物連鎖における移行過程の重要性が高まり、食物連鎖に沿った解析が必要である。また、セシウムやストロンチウムの環境動態、ヨウ素の濃縮部位を明らかにし、水中からカワシンジュ貝への濃縮機構を解明するために少量の試料でも分析が可能な安定同位体をICP質量分析計により計測する。
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