研究課題
氷雲の形成を促す「氷晶核(氷核活性を持つ粒子)」の発生源は不明であり,その粒子密度は気候変動予測での不確定因子となる。その為,近年,分析・観測技術の向上に伴い検出可能となった大気浮遊微生物(バイオエアロゾル)の氷核活性へ学術的関心が集まるようになった。特に,微生物活性が高い森林からは氷核活性微生物が頻繁に放出されると推測されている。しかし,微生物の森林からの放出量は定かでなく,森林が氷晶核の主要発生源とは断定できない。そこで,本研究では,観測機器を完備した森林観測サイトにおいて,地上観測と高高度大気観測を併用することで,森林地表から高高度までの浮遊微生物の鉛直分布を明かとし,氷核活性微生物の森林からの放出量を追究しつつある。2019年度は,筑波実験植物園において,森林内と森林上空を浮遊する大気粒子を,ヘリコプターと建物屋上を併用して捕集した。大気粒子から微生物のゲノムDNA直接抽出し(培養を経ない),解析した結果,森林内には,数百種以上の細菌と真菌が浮遊しており,真菌(特にキノコ)が樹冠上から上空にまで浮遊し垂直分布していることが明らかになった。大気粒子試料から,20種程度の真菌と細が分離培養され,その内,3種で高い氷核活性が認められたため,氷核活性微生物が森林外へと放出されている強力な手がかりが得られた。今後,定量PCRによる氷核活性微生物の定量に取り組む。こうした風送微生物に関する研究成果への学術的評価は高く,大気科学雑誌Atmos. Environ.やエアロゾル研究(牧代表主著)に論文発表された。また,充実した研究成果から導き出される「微生物・キノコと雲形成の関連性」は社会的注目度も高く,科学テレビ番組(例:林先生の初耳学:MBSテレビ,ガリレオX:BSフジ)に取りあげられ,研究紹介執筆(空飛ぶ微生物ハンター:汐文社)や招待講演の依頼を受ける機会に恵まれた。
2: おおむね順調に進展している
森林バイオエアロゾルの捕集調査:2019年4月から2020年3月にかけて,森林地帯に隣接した観測サイト(茨城県筑波実験植物園と福島県波江)において,地面上(高さ3m)において大気粒子を長期的に採取する観測調査を実施した。平行して,季節変化を調べるため7月および11月,1月には,筑波実験植物園において,ヘリコプターと建物屋上を利用し,それぞれ高度500mと10m(樹上)で大気粒子を捕集した。いずれも,大気粒子はフィルター上に吸引捕集し,大気観測機器によって,粒子の垂直混合の指標となる環境データ(粒子密度,地表面水分,温湿度,風速等)も順調に計測した。培養を経ない微生物ゲノム解析:大気粒子試料から直接抽出したゲノムDNAに含まれるrRNA遺伝子とITS領域(細菌・真菌の種の指標)の遺伝子情報を,超並列シーケンサーによって解読した。遺伝子情報をバイオインフォマティクス解析した結果,森林内外を浮遊する微生物群は数百種以上で構成され,森林上空ではキノコ類の種が優占し,キノコの胞子が上空へと放出されることが明らかになった。解析試料数は,昨年度の10倍になる100以上と大幅に拡充された。微生物の集積培養:大気粒子試料中の微生物を,寒天平板法および希釈培養法(液体培地)を用いて,培養し,分離株を50株以上得ることができた。分離株の種を遺伝子レベルで同定したところ,20種以上の真菌と細菌で構成されていた。分離株の氷核活性の評価:小滴凍結法を使って真菌株と細菌株の氷核活性を検証したところ,-5度程度から氷を形成する菌株(Fusariumu属とBacillus属,Pseudomonas属の種)を確認できた。従って,森林には強い氷核活性を持つ微生物が,生存しながら浮遊していることを実証する証拠が得られたと言える。従って,計画どおりに観測実験をこなし,充分な進捗結果が得られていると判断した。
森林地帯に隣接した観測サイト(茨城県筑波実験植物園)での観測を継続し,特に,夏と冬に,ヘリコプターと建物屋上を利用した観測を重点的に実施し,森林内外の垂直分布解明の手がかりとなる観測データと試料を集積する。拡充された大気試料を使って,「培養を経ない微生物ゲノム解析」を継続して実施する。また,既に解析済みの微生物群集構造データを,環境因子と比較することで,微生物群集の鉛直分布および時系列変化を理解し,「森林から放出(鉛直混合)される微生物群」を特定する。種組成解析を主体とした群集構造解析に加え,全ゲノム解析も重点化し,試料に含まれる氷核活性に関わる遺伝子の情報も集める。「微生物の集積培養」も推し進め,分離株のストックを増やす。分離株のrRNA遺伝子とITS領域を解読し,種を同定するとともに,氷核活性を小滴凍結法と氷核活性計によって検証する。強い活性の分離株を,活性の雲生成チェンバー実験に使い,実大気に近似した気象条件下(現場に近い断熱膨張過程)で大気粒子化し,雲形成過程を確める。「氷核活性微生物種の動態・分布調査」を本格化させる。「微生物群集の鉛直分布」と「氷核活性の評価」をもとに,森林から放出され氷核活性を持つ微生物の種(キーストーン種)を選定する。キーストーン種に特異的な核酸(プローブとプライマー)を合成した後,核酸プローブを使い,蛍光顕微鏡下で試料中の特定種を識別する検出系(FISH法)を構築するとともに,核酸プライマーを用いて,微生物一細胞から計数できる遺伝子定量法(定量PCR法)を確立する。両手法を使い,大気粒子に含まれる微生物を経時的に計数し,氷核活性種の森林内外での動態と分布を定量的に理解する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (23件) (うち国際共著 8件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (37件) (うち国際学会 5件、 招待講演 8件) 図書 (5件) 備考 (1件)
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