研究実績の概要 |
微量元素による環境汚染は産業の発展において危惧すべき問題の一つとして挙げられる。ATSDRは、ヒトの健康に最も重大な潜在的脅威をもたらす有害な環境化学物質をランク付けしており、数多く存在する化学物質のなかで、1位から3位にAs、Pb、Hg、7位にCdがランクインしている(The ATSDR Substance Priority List, 2022)。母体の血液に含まれる重金属類は胎盤を通過することから、母体環境の変化に脆弱であると考えられる発達途中の胎児(仔)へのこれら重金属類の影響が懸念される。母子間移行に関する研究は、血液を用いたものは数多く存在する一方、母親の曝露によって、どの程度胎児(仔)の臓器に蓄積するかに関する報告は僅少である。本研究の対象動物種であるフイリマングース体内のHgレベルは、数種の海生哺乳類と同様に比較的高値を示し、水銀に対する防御機構の一種だと考えられるOHgの無機化やHg/Seモル比の関係も同様のパターンを示す。また、水銀による毒性影響の報告はみとめられていないことから、本種を水銀耐性を有する水銀高蓄積野生動物のモデル動物とみなし、自然曝露による母仔間の微量元素移行に焦点を当て、生体防御のためのHgとSe及びその他必須微量元素の母子間移行の特徴を明らかにすることを目的とした。 沖縄で捕獲されたフイリマングース成獣メス妊娠個体12検体とその胎仔29匹を分析に供試した。それら29母仔ペアについて微量元素の母子間移行を解析した。 水銀高蓄積種である本種において、胎仔水銀濃度に雌雄差はみられなかった。胎仔臓器において、OHg濃度が成獣よりも有意に高値を示す臓器はなかった。OHgの無機化は胎仔期から生じていることから示された。本研究結果から、母子間の水銀移行から胎仔を守る水銀高蓄積種特有の機能が存在することが推察された。
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