研究課題/領域番号 |
18H03390
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
高橋 由紀子 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (00399502)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高感度試験紙 / 簡易大気分析 / 簡易表面分析 / 簡易水分析 / 色素ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
平成30年度~令和元年6月末まで(研究計画変更)の研究実績の概要を示す。 1)大気中の超微量元素の簡易分析:極低濃度の大気中金属水銀(ng m-3レベル)をナノ薄膜試験紙の通気濃縮特性を生かして、超高感度定量を狙った。機器分析で問題があり代替のICPMS装置の修理で遅延を生じた。水銀蒸気発生装置を用いテドラーバック内に水銀を拡散させ、ジチゾンナノ繊維膜に通気し色変化を追跡した。捕集率は18.8%となり、イオンでなくHg0の形態でも捕捉可能とわかった。しかし変色が不十分で流量、膜、後処理などで改善を試みたが、検出に至らなかった。ジチゾンナノ繊維膜の保存安定性に関する研究を進め、遮光脱酸素でも進行する分解の機構解明と抑制技術を検討し非常に重要な知見を得た。大気中粒子状マンガンの簡易分析は、製造現場で健康被害を及ぼす粒子状Mnの捕集および高感度検出を目指している。イオンではない粒子状のMnの検出に、イオン化層と発色層を設けることで成功している。さらに微粉体の定量法の概念を考案した。 2)固体表面の接触式簡易分析“タッチテスト”:金属アレルギーとして知られるニッケル検出のためのタッチテストデバイスの開発として、ナノ薄膜試験紙へのゲル状イオン化層の塗布および最適化を行った。ゲル層に人工汗などの環境を再現できるため、金属の簡易暴露試験が可能であることがわかった。耕作土壌中のカドミウムをオンサイト分析する試験紙の開発として、土壌中に含まれる妨害成分の定量を進め、同時に土からイオンとして溶出させるための前処理について酸性ポリマーを検討した。 3)環境水中の鉄イオンの分析:鉄は腐植酸(NOM)に結合した形態で溶存しており、河川で50~1000 ppb、海洋は0.001~0.05 ppbと超微量である。シデロフォアにて腐植酸から鉄を分離することに成功し、ナノ薄膜試験紙での定量につなげる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水銀は大気中のngm-3レベルの超微量Hg0を試験紙にて直接捕集できたが色変化せず、これは水銀イオンとのみ呈色する試験紙であるためで、また酸化する最適条件も試薬の安定性との兼ね合いで見つけることができなかった。それ以外の試験紙は概ね計画通り、もしくはそれ以上の進展があった。特に粒子状Mnは、検出のために粒子をイオンに溶かす必要があるが、酸化マンガンは酸性かつ還元剤が溶解に必要で、逆に発色には弱アルカリ条件が必要であるためpH緩衝層を追加し、2層コーティングの試験紙を開発した。合成した酸化マンガン粒子(<1 μm)を模擬物質として検出を行ったところ、粒子の溶解および試験紙の呈色が観測され、2層および試験紙がそれぞれの機能を発揮して検出可能となった。大気浮遊の粒子の検量線を作成する方法も新たに考案し、試験紙での粒子の定量性の評価が可能となり、当初計画以上に進展している。固体表面の接触式簡易分析“タッチテスト”に関しての2つの研究内容、タッチテストデバイスおよび土壌中カドミウムのオンサイト分析はおよそ当初予定していたとおり、ゲルからなるイオン化層は十分に機能し試験紙との相性もよく、固体表面の定量概念の基盤となる。環境水中の鉄イオンの現場分析法の開発は、溶存鉄のほとんどを占める腐植酸鉄が安定かつppbレベル以下の高感度分析が要求されている。試験紙で検出するためには鉄イオンを腐植酸鉄から分離しなければならず、鉄(III)イオンに対して非常に大きな安定度定数を持つ、デフェロキサミンというシデロフォアを用い、分離に成功した。さらに試験紙との反応を追求する。またジチゾンナノ繊維かならる試験紙は水中の水銀イオンを規制値レベルで高感度高選択的に定量できるが、これまで保存性に難があり実用化へのハードルであった。退色促進のファクターを見いだし、さらに抑制する方法を発見した点、大きな進展であった。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、以下の計画を予定している。 1)大気中の超微量元素の簡易分析:大気中金属水銀(ng m-3レベル)は取りやめ、鉱山や製造業作業者の健康管理を目的として、尿中水銀の測定を検討する。水サンプルでのジチゾンナノ薄膜試験紙の感度はサブppb~ppbで、かつ妨害物質の影響が少ない方法であるため、人工尿への水銀のスパイクにより、検出の可能性を検討したい。大気中粒子状マンガンの定量では、イオン化層の最適化とICPAESでの定量性のクロスチェックを行い、色強度とMn量との関係を調査したい。 2)固体表面の接触式簡易分析“タッチテスト”:タッチテストデバイスでの定量分析の概念を確立したい。色強度のみならずフローなども利用し、定量分析の可能性を探りたい。土壌中のカドミウムをオンサイトで分析する試験紙の開発として、土壌中に含まれる妨害成分の定量、またカドミウム汚染土壌を作製し、同時に土からカドミウムイオンとして溶出させるための現場でできる前処理として含水酸性ポリマーの使用を検討する。 3)環境水中の鉄イオンの分析:デフェロキサミンというシデロフォアにて腐植酸から鉄を分離することに成功したが、デフェロキサミン鉄錯体からどのようにナノ薄膜試験紙での定量につなげるか、鉄(III/II)の酸化還元による安定度定数の変化もしくは有機配位子の破壊も検討する。 ジチゾンの保存法はISOの試薬でもあり、世界的に広く重金属の定量分析、抽出試薬として使用されている。さらに研究を進め特許出願を行う予定である。
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