2000年代の後半,液体クロマトグラフ/安定同位体比質量分析計(LC/IRMS)の融合・実用化が行われた。その結果,水溶性が高く,熱に不安定な個別成分の炭素安定同位体比が測定可能になった。現在,様々な分野において応用研究が世界中で活発に行われている。しかし,LC/IRMSを用いた農薬類を対象とした応用事例は,世界でまだ行われておらず,安定同位体比測定における特有の課題を考慮した基礎的実験から調査する必要がある。 現在のグローバル化した世界において,食品の流通は益々活発になっており,またテロリストにとっても農薬は容易に入手しやすい劇毒物であるため,様々な農薬類の異同識別法の確立は重要な意味を持つ。本研究では,近年開発されたLC/IRMSを用いて,販売流通量が多く,水溶性が高い農薬類の炭素安定同位体比の高精度分析法を確立し,すべての農薬を包括的にカバーすることで,農薬類の新たな危機管理手法の創設を目指す。 令和2年度の研究では,研究代表者所属機関が保有しているLC/IRMS(Elementar社製,Liquiface/Isoprime)に,さらに様々な改造を加え,また前処理として固相抽出法を組み合わせることで,日本酒中の微量の有機酸類の炭素安定同位体比を高精度に分析することを可能とした。また,農薬類の分析も実施した。
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