研究課題/領域番号 |
18H03394
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
谷保 佐知 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (00443200)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ペルフルオロアルキル化合物 / 残留性有機汚染物質 / 光分解反応 |
研究実績の概要 |
残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約の緊急課題となっているペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)に代表されるペルフルオロアルキル化合物群(PFASs)の環境残留性を評価するため、自然環境試料中に混合物として存在するPFASs全体で生じる段階的な光分解反応の解析を行う。 本年度は、低濃度標準物質とブランク試料として超純水を石英管に封かんし、極域のスバルバード諸島の自然環境下で約3か月間の分解試験を実施した。 分解産物の解析のため、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS/MS)および液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)を用いた分析方法および、未知の分解産物の高感度測定が可能な飛行時間型質量分析計(LC-TOF-MS)での分析方法を開発した。LC-TOF-MS測定では、本測定・解析方法のテスト試料として、実大気試料を用いてその有用性を検証した。本システムにより、117個のPFASsが検出され、その内11個の塩素化ペルフルオロポリエーテルアルコールと4個の塩素化ペルフルオロポリエーテルカルボン酸が初めて発見された。また、大気試料ではH-PFCAsの初めて検出した。 また、フッ素収支を解析するためにフッ素に特化した燃焼イオンクロマトグラフ(CIC:Combustion Ion Chromatography)の開発も行った。LC-MS/MS測定では、数pg/mL程度の高感度分析が可能となった。しかし、GC-MS/MSおよびCIC測定では、分析感度が低くブランクレベルが高いため、試料の解析に適用させるために、さらなる分析感度の高感度化およびブランクレベルの低減などの改善も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、PFASsの低濃度標準物質とブランク試料として超純水を石英管に封かんし、スバルバード諸島の自然環境下で約3か月間の分解試験を完了することができた。対象成分は、自然環境下で分解しないと考えられているPFOSおよびPFOAと、これらの前駆体となりえるFOSA、N-EtFOSAA、8:2FTSA、9Cl-PF3ONS、HFPODA、DONA、8:2FTUCA、8:2diPAP、8:2FTOHなどの前駆物質・スルホン酸類・カルボン酸類を含む11種のペルフルオロアルキル化合物群(PFASs)を選定した。 分解産物の解析のため、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS/MS)および液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)を用いた分析方法および、未知の分解産物の高感度測定が可能な飛行時間型質量分析計(LC-TOF-MSでの分析方法を開発を行った。 特に、LC-TOF-MS測定では、本測定・解析方法のテスト試料に用いた実大気試料にも適用可能なことを明らかにし、その有用性を確認することができた。 また、GC-MS/MS分析の測定感度は、昨年度の数百ng/mL程度から数~数十ng/Lまで低減し、高感度化することもできた。また、フッ素収支を解析するためにフッ素に特化した燃焼イオンクロマトグラフ(CIC)では、より低濃度分析にも適用するため、使用する分析器具類のブランクを確認しその選定を行った。しかしCIS装置の測定感度は、数~数十ng-F程度と高いため、さらなるブランクの低減が今後必要となる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、全波長人工太陽光分解装置および極域などの実環境下において長期間分解試験に供した前駆物質・スルホン酸類・カルボン酸類を含むペルフルオロアルキル化合物群(PFASs)の低濃度標準試料(水溶液)について解析をすすめる。また、実環境試料(大気、水等)についても併せて解析を行う。 機器測定は、ターゲットの成分の高感度測定が可能な液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS-MS)とガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS/MS)、未知成分の探索が可能な飛行時間型質量分析計(TOFMS)および、フッ素としての収支解析が可能な燃焼イオンクロマトグラフ(CIC:Combustion Ion Chromatography)を用いる。なお、解析に用いる、GC-MS/MS、TOFMSおよびCICを用いた測定方法については、さらなる分析感度の高感度化および機器・操作・測定資材等のブランクレベルの低減などにより、高精度・高感度での測定が可能になるよう、改善を図る。 開発したLC-MS/MS、GC-MS/MSおよびTOFMS分析方法を用いて、試料溶液中の対象成分、分解産物のターゲット分析および精密質量数やMS/MSスペクトル同定を進める。また、CICを併用し、総フッ素/無機フッ素/有機フッ素の測定によりフッ素のマスバランスを解析を行い、光分解反応前後での化学形態の変化と個別分解産物の網羅分析を試みる。
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