研究課題/領域番号 |
18H03395
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中島 一紀 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (50540358)
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研究分担者 |
川崎 了 北海道大学, 工学研究院, 教授 (00304022)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオミネラル / 環境修復 / 微生物 |
研究実績の概要 |
2018年度の研究において,高いウレアーゼ活性と砂の固化能力を示し,かつ重金属イオン耐性を示すグラム陽性バクテリアOceanobacillus profundusを単離している。本年度は,このバクテリアを用いた模擬鉱滓の固化実験を行った。このバクテリアは尿素に対しても比較的高い耐性を示し,1 M尿素の条件下でも尿素を分解し,炭酸カルシウムを生成した。また,固化方式について,砂供試体を閉鎖系で固化溶液に浸漬させる手法と開放系で流通させる手法を検討した結果,浸漬させる手法の方がより高いバイオセメント強度が得られることが分かり,実際の現場での施工についての重要な情報を得た。SEM観察により,生成した炭酸カルシウムにより砂粒子同士が固着してることが分かり,XRD分析により,主にカルサイトが生成していることが示された。 前年度の研究において,カチオン性バイオポリマーであるポリリジンがバイオセメントの固化強度を増大させることが分かっている。そこで本年度は,天然多糖類であるキチン由来のカチオン性多糖キトサンのバイオセメントへの効果を調査し,キトサンにおいても増強効果があることを見出した。 さらに,前年度の研究において,重金属結合タンパク質であるメタロチオネイン(MT)とセルロース結合モジュール(CBM)を融合した新規融合タンパク質分子(MT-CBM)を作製した。本年度は,融合タンパク質MT-CBMをセルロース(ろ紙)に吸着させた完全バイオベースの重金属吸着剤を開発した。バッチ吸着実験において,この吸着剤によるPbおよびZnの吸着はLangmuir型であることが推察され,それぞれ39 mg/gおよび29 mg/gの最大吸着量を示した。さらに,作製した吸着剤を用いたセミバッチ連続吸着実験システムを構築し,吸着剤が再利用可能であること,および吸着力が低下した場合に再活性化が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重金属イオンへの耐性を示すバクテリアを用いた砂供試体の固化試験においては,固化した砂供試体中でのバクテリアの存在箇所を特定するまでには至らなかったものの,SEM観察によりバクテリア(実際にはバクテリア中の尿素分解酵素)の触媒機能により生成した炭酸カルシウムが砂粒子同士を結合し,固化していることが示された。また,天然バイオポリマーであるキトサンがバイオセメントの固化強度増大に効果があることも明らかとなった。 一方,セルロースを用いた重金属イオン除去システムの開発については,バッチ系でのイオン吸着実験だけでなく,連続系の実験システムを構築することができた。さらに,開発した吸着剤は重金属イオンを脱着することで再利用できることが示された。 以上より,おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,モデルとして用いた砂供試体のバイオセメント固化に成功している。しかし,砂供試体とは異なり,実際の土壌は非常に複雑な組成(様々な鉱物種,腐植物質,微生物種を含む)からなる。そこで,重金属で汚染された土壌サンプルを用いて,バイオセメントによる封じ込めを検討する。また,土壌中の微生物群集がどのように変化するかについて菌叢解析によりモニタリングし,バイオセメントを実施した場合の環境影響を評価する。 また,バイオポリマーの添加効果については,甲殻類の甲羅や貝殻など,天然の無機・有機複合体からヒントを得ながら,より固化強度が増加し,かつ低コストのバイオマスとタンパク質の組み合わせを探索する。 重金属吸着性セルロースに関しては,より高度な連続システムを開発する。構築したラボスケールの連続カラム吸着システムを用い,吸着速度や滞留時間などのファクターの最適化とモデル化を検討する。また,鉱山跡地から単離したバクテリアが重金属に応答して細胞外高分子物質(EPS)を分泌することが明らかとなっている。そこで,このEPSの構成成分を解析し,重金属除去への応用可能性を検討する。
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