研究課題/領域番号 |
18H03400
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
二又 裕之 静岡大学, グリーン科学技術研究所, 教授 (50335105)
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研究分担者 |
新谷 政己 静岡大学, 工学部, 准教授 (20572647)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞外電子伝達機構 / 微生物電子共生系 / バイオミネラル / バイオコンバージョン / 嫌気廃水処理 / 硫酸還元細菌 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、(1)モデル微生物として分離株Desulfovibrio sp. HK-II株の細胞外電子授受機構の解明、および(2)蓄電バイオミネラルを電子授受の場として構成される電気的微生物共生系における代謝プロセスの影響である。 (1)電子授受機構の解明の為に、コントロール条件として、乳酸を電子供与体、硫酸を電子受容体とする硫酸還元条件下では、HK-II株は乳酸を酢酸に変換する不完全型酸化を行なう事が明らかとなった。次に、乳酸を電子供与体、電極を電子受容体とする微生物燃料電池(MFC)条件下では、電流生産に伴う乳酸の減少と一時的な酢酸の蓄積が見られるものの、最終的に酢酸は完全に消費されることが明らかとなった。この予想外の結果は、HK-II株が電極を電子受容体とする場合において、細胞内の代謝を大きく変換する事を示しており、微生物の代謝を電気的に制御可能である事も示唆している。一方で、負極電位を+0.3 Vに設定した場合では、硫酸還元条件と同様に酢酸が蓄積した事から、HK-II株の酢酸利用には細胞外電子授受反応が関与している事が改めて示された。最適な負電極電位の検討を実施したものの、固定負極電位条件下では酢酸が蓄積するため、極特異電位で反応が生じているのか、あるいは全く別の要因なのか現時点では不明である。 (2)HK-II株が生産する蓄電性バイオミネラル(RBM)を用い、また、汽水湖底泥を接種源、電子供与体として乳酸を添加し、半回分培養により嫌気微生物集積培養を実施している。RBM無添加系をコントロールとした。現在、継代培養10代目であり、RBM添加系において乳酸消費速度が速いことが示された。PCR-DGGEに基づく微生物群集構造のMDS解析結果から、両系では異なる微生物群集構造の形成が示された。本結果は、RBMを電子授受の場とした微生物電子共生系の形成を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、(1)モデル微生物として分離株Desulfovibrio sp. HK-II株の細胞外電子授受機構の解明、および(2)蓄電バイオミネラルを電子授受の場として構成される電気的微生物共生系における代謝プロセスの影響である。 (1)計画では、HK-II株の細胞外電子伝達機構解明に向けて、適切な培養条件下でHK-II株を培養し、回収した細胞を用いてトランスクリプトーム解析を行なう予定である。H30年度において、予想外のことにHK-II株は細胞外電子伝達条件下で代謝を劇的に変化させる事を発見した。更に、負極電位を固定しないMFC条件下で培養する方が、この代謝変化を再現できることも明確になった。このように、予想外の新発見を踏まえより適切な培養条件を確定できている。 細胞外電子伝達機構解明の解明おいて、HK-II株の遺伝子組み換え技術は、今後必須になると予想される。HK-II株の薬剤耐性能については、その抗生物質の種類と最小阻害濃度域の決定もできており、H31年度に向けた足掛りは得られたと判断している。 (2)RBMを介した嫌気微生物生態系の構築は順調に進められており、今後も集積培養を続ける事で微生物電子共生系の形成が可能になると期待される。また、研究計画にも挙げている嫌気廃水処理の向上についても、RBM添加系の方がより高い活性を示す傾向にある事から、順調に進展していると判断される。 以上、研究全体の進捗状況から、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、(1)モデル微生物として分離株Desulfovibrio sp. HK-II株の細胞外電子授受機構の解明、および(2)蓄電バイオミネラルを電子授受の場として構成される電気的微生物共生系における代謝プロセスの影響である。 (1)H30年度までに、より適切な培養条件およびHK-II株の特徴的な代謝反応を把握できた。この事を受けて、負極電位を固定しないMFC条件下でHK-II株を培養し、時系列的に有機酸および電流密度を測定し、細胞外電子伝達活性を発揮していると予想される時点で細胞回収を実施する。速やかにRNAの抽出を行ない、トランスクリプトーム解析を実施し、硫酸還元条件下の代謝と比較し細胞外電子授受機構およびそれに伴うと予想される代謝の切り替わり機構へのアプローチを行なう。なお、HK-II株のゲノムアノテーションは、H30年度時点で終了している。 HH-II株の遺伝子組み換え技術として、プラスミドの利用は重要であるため、HK-II株が自前のプラスミドを持っているかどうかを、パルスフィールド電気泳動により確認する。もし無ければ、既存のプラスミドの導入をエレクトロポレーションにより試みる。あるいはCRISPR-Cas9の利用も検討する(新谷博士が担当)。 (2)RBMを介した嫌気微生物生態系の構築を継続して実施し、有機酸濃度変化および微生物群集構造解析を実施する。また本培養系から、電極を電子供与体あるいは電子受容体として生育可能な微生物の分離を試みる。もし得られれば、ゲノム解析および細胞外電子授受機構の解析を、これまでの方法に準じて進めて行く。また、嫌気廃水処理の効率化に向けて、廃水処理槽の運転を続け廃水処理能力、余剰汚泥発生量および微生物群集構造について解析を進めて行く。
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